泣きながら一気に書きました

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『INNOCENCE & INSTINCT』/RED 『イノセンス&インスティンクト』/レッド

RED - Innocence & Instinct

現代アメリカン・ヘヴィ・ロックを語るうえで、中心に据え置くべきバンドはLINKIN PARKである。最近では珍しくもない、本作のように良質なメロディを軸に置いたヘヴィ・ロックを聴くと、改めてそれを痛感する。LINKIN PARKがいなければ、ヘヴィな音楽を志す者が、ここまで恥ずかしげもなく繊細なメロディを歌い上げることはできなかっただろう。

だがそれは、もちろんLINKIN PARKがオリジネイターであるという意味ではまったくない。ジャンル的には、KORN以降の「ラップ・メタル」の流れに乗って出てきた亜流バンドであるに過ぎない。そういった見えやすい外枠の革新ではなく、枠内の配分を大胆に変化させ、ジャンル内部のメロディ比率を飛躍的に向上させたのがLINKIN PARKの功績だった。

そして日本でまともに成功したアメリカン・ヘヴィ・ロックバンドは、実のところそのLINKIN PARKくらいしかいないのである。アメリカでは何百万枚ものアルバムを売り上げているモンスター・バンドの数々が、日本市場では驚くほどの冷遇を受け、来日公演も充分に行えない状況にある。メロディに対し圧倒的に敏感な日本のリスナーにとって、次々登場するアメリカン・ヘヴィ・ロック勢の中でも、及第点を与えられるのはLINKIN PARKだけだったということだろう。アメリカで大ブレイクを果たしたCREEDもGODSMACKもSTAINDも、日本ではまったく通用しなかった。

おかげでこのジャンルに対しては日本のレコード会社も明らかに逃げ腰で、リリースが本国に比べて半年や1年遅れるのは当たり前、むしろ本国ではかなり売れていても、日本盤が出ないのが当然という状況である。このREDも、本国で40万枚を売り上げた1stの日本盤は未発。アメリカでの40万という数字は、一見たいしたことがないようにも思えるが、グラミー賞にノミネートされたりSTAINDとツアーしたりというのも合わせて考えれば、新人としては充分な実績と言える。

ちなみにこのRED、巷では「ラップなしのLINKIN PARK」との評判であった。となれば計算上は、単なるありがちなヘヴィ・ロックになるはずなのだが、そうは感じないのがこのバンドのポテンシャルであり、LINKIN PARKが単なるラップ・メタルではなかったことの証明でもある。LINKIN PARKは表面的特徴であるラップ云々よりも実はメロディに特徴を持つバンドであり、その旋律美はこのREDにもストレートに受け継がれている。

単純に言えばLINKIN PARKからラップを排除し、ストリングスを増量すればREDになる。歌メロの質では本家に勝てていないが、楽器陣の演奏が総じてメロディを強調する方向で一致しているのと、哀感を妨害するラップ的なパーティー感が皆無であるため、全体としてはLINKIN PARKにひけを取らない旋律美を感じることができる。

ヘヴィ・ロックからの脱却を計ったLINKIN PARKの3rdにハマりきれなかった身としては、彼らのデビュー当時を思わせるこのREDのヘヴィ・ロックは、空いた穴を埋めてくれる頼もしい存在ではある。ストリングスを導入した大仰なアレンジのみをアイデンティティと言い張るのはちょっと無理があるが、質的には高く、今のところはあえて個性をアピール必要もないのかもしれない。

だがアイデンティティの問題は、今後の大きな課題となってくるだろう。次作でもう一段クオリティを上げてぶっちぎるか、あるいは幅を広げ方向を見失うか。このポテンシャルがあれば迷走もまた良し、か?

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