歴代メンバー七人の集合体による、ある意味「完全体HELLOWEEN」が満を持して発表した待望の新作。
だがこの作品の評価はひと筋縄ではいかない。近作よりは間違いなく良いが、だからといってかつての名作群に匹敵するわけでもない。
予想以上ではあるが期待以上ではなく、完成度は高いがひらめきを感じる瞬間は少ない。足し算のあとは見えるが掛け算とまではいかず、むしろ各人の互いへの配慮が引き算になってしまっているようにも写る。
いわば結果として全体の平均点が高くなるように大人のまとめ方をしたような、いわば民主主義の可能性と限界を同時に感じさせる作品である。アルバムとしては、サシャ加入直後の『RABBIT DON'T COME EASY』あたりに近い感触があるが、キラー・チューンの質ではやや負けているかもしれない。
どの楽曲も歌メロは及第点をクリアしているが、かといって過去の名曲群との勝負となれば分が悪い。といってもこれはほぼ「伝説との勝負」となってしまうため当然のことではあるのだが、健闘している数曲もその伝説の根拠となる『守護神伝』時代の初期楽曲寄りの作風ではなく、どちらかと言えばアンディ加入後に手に入れた武器が光る楽曲群である。
その代表が③「Best Time」で、個人的にはこれが本作のベスト・チューン。アンディがこのバンドに持ち込んだデヴィッド・ボウイからの影響が、グラム・ロック風の耽美的美旋律となって際立っている。
全体を通して感じるのは、メロディの強度の問題もあるがアレンジ面における単調さで、どうも楽器陣の演奏が楽曲の要求を超えてこない印象が残る。
これが大所帯の民主主義による忖度が働いて皆が遠慮がちになっているためなのか、単なるアイデア不足に過ぎないのかはわからない。
いずれにしろ本来はバンドを引っ張るべき圧倒的才能の持ち主であるマイケル・ヴァイカートが、他に船頭が現れると意外と身を引きがちであるという悪い癖が今回も出ているように見える。やはりこのバンドは、彼のモチベーション次第なのだという事実に改めて気づかされる。
そう考えると、本作の主たる問題はやはり「ヴァイキー成分」の不足という一点に尽きるのかもしれない。それは彼が多くの楽曲を手掛けているかどうかというだけの問題ではなく、アレンジ面も含めて、彼の中にアイデアを提供するモチベーションが健在で、かつバンド側にそれを受け容れる体制が整っているのかどうかという話である。
そういう意味で、このバンドに本来ふさわしいのは今回のような民主主義ではなく、結局のところヴァイキーによる独裁体制なのだろうと思う。
といってもこれまでの経緯を考えると、彼はそこまで全面的な責任は負いたがらないタイプのようなので、それは叶わぬ理想郷に過ぎないのかもしれない。おかげで我々ファンは、なんでもっとやれるのにやらないのかと、毎度歯痒い思いをさせられたりもするのだけれど。しかし才能豊かな人というのは往々にしてそんな飄々とした自由人であったりもするから、こればかりは仕方がない。
期待が大きすぎたといえばたしかにその通り。アルバム全体の完成度はむしろ高いと言っていいレベルにあるため、「船頭多くして船山に上る」とまではいかないが、バンド内民主主義のメリットとデメリットをともに感じさせる、これはひとつの象徴的な作品であるかもしれない。