泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

     〈当ブログは一部アフィリエイト広告を利用しています〉

二度手間侍の牛乳茶

f:id:arsenal4:20180207011541j:plain:w250

「二度手間侍」とは、二度手間をものともしない侍のことである。それが昨日、カフェに現れた。まずは脳内に、そして眼前に。

といってもわけがわからないだろうがそれでいい。「二度手間侍」とはその昔、『アンタッチャブルのシカゴマンゴ』というラジオ番組内において、アンタッチャブルの柴田が生み出した言葉である。ある日その番組中に、柴田が「ギター侍」こと波田陽区のフレーズを投入する流れが生じた。なぜと言われても生じたんだからしょうがない。

エンタの神様』でかつて大ブレイクしたギター侍のネタでお馴染みのフレーズといえば、「○○ですから、残念!」という決め台詞である。だがそこで咄嗟にそのフレーズを引っぱり出してきた柴田は、「残念ですから、残念!」と、なぜか「残念」というワードを無駄に二度繰り返したのだった。もはや遠い記憶であり定かではないが、たしか単純なミステイクだったように思う。

しかし凄いのは、柴田がこれを間違いとして単純に処理しなかったことで、彼はこのミスを自ら面白がり、ギター侍ならぬ「二度手間侍」として番組内に定着させてしまった。「残念だから残念」とは、おそろしく当たり前の話である。「残念=残念」。「2=2」という数式くらい意味のない、完全な二度手間だ。しかしだからこそ言いたくなる。以上が「二度手間侍」という言葉についての解説である。

余計な解説に文字数を割いてしまった。文章に登場させる特殊な用語の解説に、また別の文章が必要になる。これも二度手間といえば二度手間なのかもしれない。

さて、ここからが本題である。二度手間侍は、実のところ我々の日常に遍在している。僕は昨日、そんな二度手間侍と壮絶な戦いを繰り広げた。これから書くことは、いわば僕と二度手間侍との戦いの記録、つまり「戦記」である。これも二度手間だ。「つまり」はいつだって二度手間を呼ぶ。

昨日の夕方、僕はちょっと茶をしばきながら本を読もうと思いタリーズコーヒーに入った。そのくせ僕はコーヒーが飲めないので、コーヒー以外のものを頼まなくてはならない義務を負う。そうなるとひどく選択肢の幅は狭まり、だいたい紅茶系かココアを頼むことになる。タリーズでは以前チャイを飲んだ記憶があったので、それを頼むつもりでレジへ向かった。

だがレジでメニューを目の前にすると、「チャイ」の文字がなかなか見当たらない。そこで僕は店員さんに、チャイというメニューの有無を確認しようと思い立ったが、同時にそれはどうも「チャイ」というだけの単純な商品名ではなかったような記憶が浮かび上がってきた。たしか「チャイティーラテ」とかなんとかいう、複合的な名前だったような気が。

店舗数が多いこともあって、僕は普段からタリーズよりスタバに行くことのほうが多いのだが、あちらではよく「ほうじ茶ティーラテ」という品を注文する。その感じからすると、店は違えどこの界隈におけるチャイの名称は、なんとなく「チャイティーラテ」で合っているような気がしてこないでもない。

そう思って「チャイティーラテってありますか?」と口にしようとした瞬間、僕の脳内に大いなる疑問がよぎった。

「『チャイ』ってそもそも、『ミルクティー』って意味じゃなかったっけ?」

……いや確実にそうだろう。だとすると、そのあとにひっついてくる「ティーラテ」の正体はなんだ? もしかしてこれも「ミルクティー」なんじゃあじゃないのか?

その段になって、ようやく僕はピンと来たのであった。これは間違いなく、二度手間侍の仕業であるということに。「残念ですから、残念!」僕はそれと同じ大惨事を、あやうく口にしてしまうところだったのである。

危ないところだった。すんでのところで脳内二度手間侍の攻撃を躱した僕は、いったん呼吸を整えてから店員さんに言った。

「あの~、チャイ的なものってありますか?」

「的なもの」という言葉のモザイクをかけることで、僕は表現を曖昧に処理することに成功した。すると店員さんはメニューを指さして答えた。

「あ、はい。こちらの『チャイミルクティー』ですね」

なんということでしょう! この人はいま、「ミルクティーミルクティー」という意味のことを言っている。これぞ紛うかたなき、二度手間侍の攻撃に違いない。しかも今度は想像上ではなく、目の前で実際に発せられた言葉であった。いまここに、店員に姿を変えた二度手間侍が出現した。

しかもそれは、想像上の二度手間侍よりもさらにストレートな一撃であった。「チャイティーラテ」ならば、まだ「ティーラテ」部分の意味が直接的には認識しにくいぶん、二度手間感が若干緩和されるような気がしないでもない。

だがそれが「チャイミルクティー」となると、もはや言い訳は無用だ。「ミルクティー」と言われて「ミルクティー」を思い浮かべない者はいないからだ。「チャイ=ミルクティー」であって、つまりそれは「ミルクティーミルクティー」ということになる。何を言っているのかわからなくなってきた。

考えてみれば、ライバルのスタバが「ほうじ茶ティーラテ」と謳っている以上、タリーズも同じく「~ティーラテ」という命名パターンを使う確率は低い。ぬかった。しかし改めて考えてみると、スタバの「ほうじ茶ティーラテ」にしたところで、「茶」と「ティー」の間には確実に二度手間侍がいる。頭痛が痛い。いや頭痛で頭が痛い。

「大事なことだから二度言います」

学校の先生はよくそんなことを言ったけれど、それでもちゃんと二度聴き逃すのが僕たち生徒だった。二度手間侍は、いつ、どこにでも現れる。世を忍ぶ仮の姿の二度手間侍が淹れてくれた「チャイミルクティー」は、少しだけ濃い味がした。


tmykinoue.hatenablog.com

tmykinoue.hatenablog.com

Copyright © 2008 泣きながら一気に書きました All Rights Reserved.