百貨店のフロアを歩いていると、映画『ゴーストバスターズ』のテーマ曲が軽快に流れていることにふと気がついた。どこかに霊がいるのだろう。
あるいはウインドウショッピング・オンリーの客、つまり何も買わない賑やかしの客を「ゴースト」と名づけ、それらを即刻退治せよという鬨の声であろうか。
そういえば、外で雨が降っていることを室内にいる店員に知らせるために、『雨に唄えば』をかけるデパートがあるという。その音楽を合図に、店員は紙袋にビニールをかけるなど雨対策のサービスをはじめるとか。
まさかと思って検索をかけてみると、『ゴーストバスターズ』のテーマソングを、「売り場を掃除する合図」に使っている百貨店があるらしい。こうやって調べてみると、想像よりひとまわり小さいリアルな着地点が用意されていて少しがっかりするようなことが頻繁に起こる。調べないほうが楽しめることもある。
しかしだとすると、本当に売場に霊が出現した場合にはどうしたら良いのだろうか。館内放送で必死に『ゴーストバスターズ』を流してみても、店員たちは「ああ、いつもの掃除の時間ね」と思うだけで、霊と戦う準備など誰ひとりできていない。ちょっとばかりユーモアを利かして単なる「清掃行為」を「お化け退治」にたとえてみたお陰で、本来「お化け退治」のテーマである曲を、文字どおり「お化け退治」を知らせる最重要レベルの警報音としては使うことができなくなってしまうのである。
かくしてデパートはゴーストたちに占拠され、霊の館となる。そしてこのデパートを根城にゴーストの快進撃がはじまり、やがて人間は絶滅。世界中がゴーストの支配下に置かれることになったのち、ある日そのデパートに、ひとりの人間らしき客がふらりと現れる。
自らの霊力によってすっかり人間を根絶やしにしたはずのゴーストであったが、店頭に立つデパガゴーストの目の前に現れたその人間らしき客は、見るからに完璧で、圧倒的な恐怖を感じさせるに充分だ。そんなとき、恐怖に怯えたデパガゴーストが放送室に駆け込み、皆に未曾有の危機を知らせるため館内に流すべきは、この曲を置いてほかにないであろう。
ここから、人類の逆襲がはじまる……!
「PERFECT HUMAN」/RADIO FISH