泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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もうポイントカードなんて作らないなんて言わないよ絶対

我々は、ポイントカードを使うことでいったいどれだけの時間を無駄にしているのだろう?

と言われてもピンと来ないと思うのでもう少し現実の行動に即して言うと、「ポイントカードを財布から取り出し、店員に渡して戻ってくるまでの時間」のことを主に言っている。そこで浪費される時間をたとえば時給に換算し、たいして貯まらないポイントがもたらす利益と秤にかけた場合、果たして得なのか損なのかと。

もちろん、「ポイントカードを作る際、所定の用紙に個人情報を記入させられる時間」や、「店ごとに異なる面倒なポイントシステムを理解するためにリーフレットを読まされる時間」というのも明らかに無駄だが、回数と合計時間を考えれば、「出し入れ」に使われる時間の総計には遙かに及ばない。

今のうちに言っておくがこの文中で数字を突き詰めて論理的な答えに辿りつくつもりは毛頭ない。極端に言えば、数字的に損でもそれによって精神的充足感を得られるのならば得だと言っていい。「今のうちに」というわりには、言いだすのが文章中盤になってしまったことを心よりお詫びしたい。むしろ心だけで。

すっかり心を失ったところで話を戻すが、つまりポイントカードは手間と時間を食う。しかしここで改めて考えなければならないのは、「ポイントカードを使わない場合にもそれはそれで時間を食う」という真逆の事実である。そのうえ時間だけでなく、気持ちまで損なわれることも少なくない。

ポイントカードを発行している店舗で買い物をする場合、レジにて毎度「ポイントカードはお持ちですか?」と訊かれることになる。そこでカード持ちの人間はカードを出し入れする時間を浪費するわけだが、カードを持っていない人間にはそこでまた別の、「あ、いや、持ってません……」と返答する手間が発生する。

その程度のこと、と思われるかもしれないが、よく考えてみてほしい。カード持ちの人間には、店員に「ポイントカードはお持ちですか?」と問われる前に素早くカードを切ることで、その質問を封印しショートカットできるという裏技があるのである。つまり手を動かすことで、この無駄な一問一答をすっかり省略することができる。

この時点で、両者にかかる時間の差異はかなりの僅差になる。話しながらレジ打ちを進められるレジ係も少なくないことを考えると、やはりカードを切るほうが、レジ係の手が一瞬ふさがってしまうぶん時間のロスは若干大きいかもしれない。

ここでさらに「ポイントカードをお作りしますか?」という第二問が飛んできたり、さらには訊いてもいないのに当店のカードがいかにお得かという「ポイントカードシステムの説明」が入ってきたりした場合は、明らかにそちらのほうが時間を食うのだが、今どきそこまで一気に押し込んでくる店員は多くない。

そう考えるとあとはやはり、こちら側の精神的充足度の問題になってくる。

そこに関しては、どうしてもポイントカードを持っている人のほうが有利だろう。ポイントカードというのはある種、その店に通い続けているという常連の証しであり、それを差し出すことによってその店への忠誠心を自動的に指し示す会員証なのである。逆に言えば、ポイントカードを作らないということは、自分の心はこの店にはないと言っているも同然であり、相手から差し出された手を撥ねのけるも同然の行為であるということである。

そうなのだ。この「いわれのない後ろめたさ」こそが、ポイントカードを作らないと決意した人間を襲う最大の敵なのである。「ポイントカードはお持ちですか?」と訊かれ、「あ、ないです」と答えた直後に訪れる一瞬の間。そこに差し込んでくる謎の罪悪感を回避するというこれまた謎の目的のためだけにでも、ポイントカードを作っておく必要がある。これぞまさに、「空気を読む」という日本文化の最たるものなのかもしれない。

大量のポイントカードは財布の傷みを早め、さらにはポケットを無用に膨らませることで衣服に負担をかける。ジーンズのポケットの同じ箇所にいつも穴が空くのは、明らかにアイツらのせいである。ポイントカードなど頼らずとも、素手で勝負できる人間になりたい。とはいえお得なポイントはいちおう貯めておきたい。理想と現実の狭間に、ヤツは薄っぺらい身体を生かしてスッと入り込んでくる。こんなことならば、いっそ最初から出会わなければ良かった――。

と、こういうことをぐるぐると考えている時間こそが一番の無駄である。こうして人生の無駄ポイントがコツコツ貯まっていく。無駄をどうにかして楽しみに替えるのが知恵であり人生だと言い切りたい。

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