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不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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悪戯短篇小説「ガンズ安堵おばはん」

街角のおばはんブティックで拳銃がクロスしたデザインの凶暴なセーターを売っていた。黒地に金のラメで胸元に拳銃があしらってある。ガンズ・アンド・ローゼズのTシャツで見たことのある構図だがこちらの方がむしろ凶暴だ。なぜならばガンズのTシャツは銃が好きなのではなくガンズが好きだから買う。銃が嫌いでもバンドが好きならば買う。しかしこのおばはんセーターは銃以外の意味が皆無であるので銃が好きでなければ買わないからである。この街に殺し屋がいる。いやまだ売れてなかったからいない。何着も売ってたんだったらいる。

しかし胸元に拳銃が描かれているということは、銃口は自分の方を向いている。銃は上向きにクロスしているから自身の右肩と左肩に向けられている。つまり殺し屋ではなく自殺を企んでいる可能性が高い。だが肩を撃っただけではいくら両肩であろうと死ねないのではないか。つまりそこにあるのは自殺願望ではなく、「両肩を壊したい」というより具体的な願望である。そのような潜在意識がおばはんにこのセーターを選ばせる。では両肩を壊したくて仕方ないおばはんとは何者か?

バレーボール選手、テニスプレーヤー、プロボーラー……肩を酷使する職種をとりあえず挙げてみたものの、肩がすでに壊れていることはあれど、さすがに肩をわざわざ壊したいとは思わないはずだ。

だとしたら、ターゲットは肩ではないのかもしれない。銃口が両肩の方を向いているというだけで、その射程距離はその先まで伸びている。

おばはんは肩の上のイボを激しく撃ち壊したい可能性がある。あるいは肩の上に乗っかっている霊を打倒したいのかもしれない。それが守護霊だとすると事態はややこしいことになる。向こうは善意で守ってくれているのに、おばはんはその善意を丸ごと破壊したいと考えている。先祖への冒涜である。おばはん、稀代のワルである。

しかし僕はおばはんの良心を信じたい。おばはんは守護霊を撃ち殺したりしない。そういえばおばはんの肩に常に乗っかっているものがもうひとつあった。それは特にこれからの季節、寒くなるにつれて強大になってゆくものだ。

肩パッドである。おばはんはこのセーターの上に、ジャケットを羽織るつもりでいる。ダブルのジャケットである。あわよくばビロード、ところどころサテン地、振り向けばスパンコールである。

しかしそんなお気に入りのジャケットも、盛りすぎている肩パッドだけはどうにも許せない。なぜならおばはんの学生時代のあだ名は「アメフト」だからである。もちろんアメフトなどやったことなどあるはずもない(とはいえ、若乃花がアメフトに挑戦したときはちょっと応援したという可愛らしい一面も)が、それくらいの怒り肩だということだ。

だからおばはんはピストルセーターの上にジャケットを羽織り、セーターに描かれた拳銃でそのジャケットの肩パッドを撃つ。撃つ。ついでに怒り肩も撃つ。

つまりこれは怒り肩のおばはん専用のセーター。だけどおばはん、ただ肩が怒ってるように見えるだけ。本当はちっとも怒ってなんかいない。

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