泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『R-1ぐらんぷり2012』感想

今年は決勝に残ったラインナップからしてレベルの高い大会になるはずだと確信していたのだが、もちろん確信は単なる確信でしかないわけで、確信ってのはけっこう外れる。つまりクオリティの高い芸人が集まれば大会が面白くなるというわけではないというのがまた面白いところで、それはたぶん芸人の露出と関係がある。露出といってもスギちゃんの二の腕や徳井のパンティーの話ではない。つまりテレビでの露出という意味で、やっぱり最近よくテレビで見かけたネタは評価がつきにくいということを、今回改めて感じることになった。

もちろん審査員や客席や視聴者の誰がどれくらいテレビを観てるかとか、誰のどのネタは観ていているが誰のどのネタは観ていないとか、そんなことはわかりっこないので出場者側の対策など不可能に近いのだが、普通に考えてテレビでの露出が少ない芸人やネタはあまり見つかっていない可能性が高く、観ているほうにとって鮮度が高い。

そんなの当たり前の話だが、重要な大会になればなるほど、出場者の芸人は鉄板ネタを持ってくるものだ。鉄板ネタとはつまり、「大勢にウケた実績を持つネタ」ということであって、逆に言えば方々でやっている「露出の多いネタ」ということに自然となってしまう。最近は話題になるとYoutubeなどでもチェックされるから、その芸人の勝負ネタはすでに既視感にあふれている可能性が非常に高い。というわけで、今回は既に売れている出場者が多かったこともあって、そういった鮮度の問題が気になる大会だった。理想は全員新ネタでやってほしいところだが、それはまた別にそういう大会を立ち上げるべきかもしれない。

大会の概要としては、去年は三本勝負という無茶振り的状況だったものが、従来の二本勝負に戻った。しかしトーナメント形式は継続で、今回で言えばヒューマン中村とスギちゃんが同じ組に入ってしまったのは、不運としか言い様がない。別の組ならばヒューマン中村が最終決戦に進んでいた可能性も高い。

以下、出演順に感想を。

友近
鉄板ネタを数多く持つ友近が、最新ネタである「演歌歌手・水谷千重子」ネタを持ってきたのは自然な流れだが、最初に書いたようにこれは「最近あちこちで観られている」という意味で鮮度はむしろ下がる。「最近のネタである」という意味での純粋なネタの鮮度よりも、「近ごろよく観られている」という既視感のほうが、どうやらネタの鮮度への影響が大きい。

ネタの安定感はさすがだが、「つまんないことを言い続ける演歌歌手」という状況を楽しむためには、もっと長い時間ダラダラやったほうが面白い。世界観に巻き込まれきってしまえば、本当に何を言っても面白い状態になりそうなのだが、4分間ではそこまでは達しなかった。

しかし最後の「羽賀研二バージョンの『ネバーエンディングストーリー』のテーマ曲に乗せて焼き豆腐を持って踊る」という設定には、その絶妙な選曲のマニアック度合いも含め、明らかにその他大勢の女性芸人とは一線を画す狂気と閃きがあった。

野性爆弾・川島】
最近はいろんな番組で披露されている絵ネタを入り口に、強引に川島独自の世界観(を超えた宇宙観)へと持っていく展開。もちろん前者がテレビ受けするほうの川島で、後者がマニア受けするほうの川島なのだが、やっぱりそれらを単純に足して2で割ったからといってうまくその間に落ち着くわけもなく、どっちづかずの印象だけが残ってしまった。

前半の絵描き歌にいつもほどの狂気が感じられず、わけのわからないレベルにたどり着くまでもういくつか絵を見たかったような気もするし、逆に絵描き歌という入り口なしで、最初からわけのわからない世界観を期待していた節もある。もちろんこのキャッチーとマニアックの「接続の悪さ」も彼らしいところなのだが、4分でそれを両立するのはさすがに無理だったという印象。

【AMEMIYA】
いつもの歌ネタ。クオリティは従来どおり確かだが、ここまで広まると、さすがに飽きが勝ってしまう。歌詞の展開もいつも通り見事だが、「いつも通り」なところばかりが気になって、それが「期待通り」を通り過ぎて「マンネリ」と感じられてしまった。

COWCOW・多田】
シンプルな一発ギャグの羅列で、単発ネタを順番にやっていくだけなので単調だが、余分な要素を極力省いた結果、打数が多く全体がタイトにまとまっていた。このタイトさというのは、どうもコンテストを取るには不可欠な要素らしい。ネタのクオリティとしては二本目のお題ギャグ連打のほうがレベルが高く、僅差ではあるが順当な優勝だったと思う。

【サイクロンZ】
自ら「勢いとノリだけのマジックショー」と言ってはじまったが、まさに文字通り。それ以外本当に何もなかった。マジックが中途半端にできちゃってるのがまた笑いを阻害し、そもそも笑いを目指して進んでいるように見えなかった。本人も「笑いよりも盛り上げる」ことが第一だと公言していたので、単に出る場所を間違っているとも言える。「アメリカで通用する」という審査員の言葉は、「たしかに僕ではない誰かは笑うかもしれない」という意味でのみ共感した。

いなだなおき
ブサイクをネタにする芸人にも「笑えるブサイク」と「笑えないブサイク」というのがあって、個人的には「笑えないブサイク」のほうだった。ネタ自体は彼だからこその自虐的なブサイクあるあるだが、中身は意外とベタで普遍的な関西風。ネタを聞くとどうも「そんなことないよ、頑張って!」と応援したくなってしまい、この気持ちは笑いとは逆方向かもしれない。

徳井義実
一本目はまさかの今さらヨギータ。いくら名キャラとはいえあり得ないチョイスだが、最初に言った鮮度の問題で言うと、むしろ風化しきっていて最近見かけなくなっていたぶん、逆に観たいと思った人も多かったかもしれない。ネタのクオリティはさすがだが、やっぱり以前のヨギータに比べるとなんか無理してる感じはあった。

二本目の猥漫談は、パンティをかぶったまま熱いメッセージを語るという斬新かつフリーダムなスタイル。その挑戦的な姿勢は、売れっ子の彼がわざわざこのステージに出てきた意義を感じさせたが、さすがに女性客の引きかたが半端なかった。イケメンだからといって、何をやっても許されるわけではないらしいと知った。

【キャプテン渡辺】
毎年同じクズ人間あるある。さすがにこの大会で連発しているスタイルなので、これは厳しい。あるあるネタの質も方向性も安定しすぎていて、すでに足すこと練ることもズラすこともできなくなっているのではないか。もうこのキャラクターのポテンシャルは使い切ってしまっているような気がした。

【千鳥・大悟】
やから的なつかみからフリップネタへ。と思いきや、フリップネタはほとんどやらず、ネタの前段で笑いを取りにいくほうがメインというメタフィクション的展開。ネタ感とアドリブ感の融合は新鮮だが、脅し文句がストレートすぎてあまり笑いに結びつかず、特に女性客には笑いよりも怖さが勝ってしまっていた感触があった。構成は練ってあるが、言葉選びの段階が練り不足な印象。

ヤナギブソン
「会社員が帰宅後のどうでもいい行動予定を立てる」という、お笑いというよりは一人芝居という感じのネタ。平坦で特に思考が飛躍することもなく、自然な芝居で自然に終わっていった。

ヒューマン中村
ことわざ・名言に英語を混ぜる試みのフリップネタ。ことわざや名言が持つキャッチーなリズムとシュールな意味の融合が、とっつきやすさと深さを両立させる見事な仕上がり。特に「人の振り見て我が振りnow on sale!」が印象に残ったが、他もほぼハズレなく高値安定していた。

ネタのクオリティは随一で、バカリズムに匹敵するレベル。ただ、本人のキャラがプレーン過ぎて演者に代えがきく感じが、COWCOW多田あたりのベテランに比べるとちょっと物足りなかった。

【スギちゃん】
個人的にかなりハマっていて最近ちょっと見すぎたため既視感が強かったが、やっぱり次のネタを常に見たくなるキャラは強い。個人的にワイルドスギちゃんの喋り方は往年の松本人志さまぁ〜ず大竹の演じるコントキャラの延長線上にあると思っているのだが、そんなシュールな感触も、やっぱりあのルックスとセットになると全然違う方向に生まれ変わる。

本当はフリートークのときも徹底していなきゃいけない「ぜぇ」という語尾をつい忘れたり、ネタの最中にイマイチ受けない瞬間には明らかに哀しそうな顔を一瞬したりというのも、なぜか人柄の良さがにじみ出た魅力に感じられる。それが単なる「いい人」ではなく確実に笑いにつながるというのは、やっぱり才能というか人としてのチャームなんだと思う。たぶん芸人として売れるには、良いネタを作りそれを上手く予定通りにやるだけではなく、「想定外の失敗をどう笑いに変えられるか」という部分がどうしても必要不可欠で、スギちゃんにはネタの面白さだけではなく、そういう根本的な能力を感じる。能力というか、それが本人のキャラクターということなのかもしれないが。

最後に、最終決戦の審査に関して。
COWCOW多田とスギちゃんが3対3の同点で並び、最後の判定はキム兄に委ねられることになったが、あの状況でキム兄が自身の所属する吉本ではない方(スギちゃんはサンミュージック所属)のボタンを押すことは、どう考えても無理だろう。最終決戦のネタの出来からすると順当な結果ではあると思うが、そこは再考の必要があると思う。

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