泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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なまこ泣き虫野茂かず子

気づけばパソコンのキーボードがすり減っている。本当は気づいていたのだが、気づかぬふりをしていた。恋と同じだ。

なぜすり減っているのがわかるかというと、いくつかのキーの上の文字表記が、うすら禿げて見えなくなってきているからである。文字によっては温水レベルまで行っている。あたたかい水のほうではなく洋一のほう。ヌメリ感がないのが救いだ。

当然だがそれぞれの減り具合は、すなわち使用頻度を示すと思われる。叩いてないのに禿げているとしたら、もう遺伝だろう。叩くとむしろ血行が促進されて、生えるかもしれない。ぜひ、生えないでほしい。毛の生えたキーボードほど怖い物はない。と思ったが、キーとキーの隙間には毛が挟まっていることがよくある。キー毛(もう)。

思い立ってキーを外してみると、キー毛はそこらじゅうの突起部におそろしい絡まりかたをしている。キーを回転させた覚えはない(そういうDJ趣味はない)から、毛がひとりでに巻きついたと解釈するほかない。

ひょっとするとパソコンの上にパーマネントのあのカポカポヘッド(通称)があって、キー毛をじっくりと巻いているのかもしれない。と思ったら、頭上にあるのは焼き肉屋の煙吸いマシーンのほうだった。似ているので間違えて買ってしまったのだ。いや、自分で買ったのではなく、最初から部屋に備えつけられていたのだったか。そんな焼肉部屋が、普通の家にあるだろうか。ないだろう。よく見たら、やはりそんなものはないようだ(確認済み)。

焼肉機器ではなくキー禿の話だった。禿げ具合は、使用頻度と関係があるという話。もちろん「Enter」キーは良く使うらしく重度に禿げている。それはなんとなく納得いくのだが、しかし問題は文字のほうだ。「K」「M」「N」という、真ん中やや右サイドの三文字がいやに禿げている。キーの真ん中がザビエルのように。いったいどんな言葉を頻繁に打つとこんなことになるというのか。ローマ字表記でこの三文字を使うのは?

「カモン」だろうか? 欧文表記ではなく、あえてダサいカタカナ表記で。あるいは「家紋」。これに関しては、戦国武将の家紋ストラップ(真田家)を注文したことがあるから、否定はできない。しかしそんなに家紋のことばかり書く文脈がない。水戸光圀公でもそんなには書かないだろう。助さん格さんのほうがまだ書きそうだ。

他に「K」「M」「N」をすべて使う言葉はなんだろう? 「キミに」「かもね」「なまこ」「モニカ」「泣き虫」「蜘蛛の巣」「野茂かず子(誰)」……なんでもいいような気がしてしまう。ちなみにこの「なんでもいいような気がしてしまう」にも、KとMとNは入っている。放送禁止用語も思い浮かんだが誤解だ。

と、ふとこのブログのタイトルを思い出してみると、やはり三文字とも入っていた。そんなにこの心ないタイトルを連呼した覚えもないが、なぜか腑に落ちる展開ではある。そういや自分の名前にも入ってた。

しかしどちらにも他の文字だって入っているわけで、逆に「I」や「T」が禿げてないことの説明には一切なっていない。禿げている部分の説明はできるが、禿げてない部分の説明はできていない。だがなんとなく原点に戻った感触に満足している。わからなくても満足感を覚えることはある。恋と同じだ。迷宮入りだ。

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