泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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アンフォゲッタブル似鳥

基本的には道を歩く主義なので道を歩いていると、後ろで話しているおばんの声がした。その声の大きさで携帯と話しているのがわかる。「携帯で」ではなく「携帯と」話しているように聞こえるのがおばんの特徴なので、振り返ることなくその声の主をおばんと判断した。そしておばんは熱く言ったのだった。レンジで念のため30秒長めにチンした肉まんのように熱く。

ニトリ良かったわよ〜。んもうほんと、忘れらんないっ!」

はち切れんばかりのテンションだった。おばんの声の皺が伸びている。伸びきっている。その声を背中で聞いた僕は思った。いや、聞かされて思わされた。

おばんは、ニトリに、抱かれている。

間違いのないところだろう。最近フリーになることを表明した男性アナウンサーに「ハトリ」という人がいるが、そういう「ニトリ」がいるのだろう。「二鳥」、あるいは「似鳥」。

しかし残念ながら、「ニトリ」は安い男だ。だが残念でないことに、コストパフォーマンスには定評があると来た。おばんは計算高い女だ。

おばんの次の目標は、「イケア」に抱いてもらえるかどうかだ。「イケア」は外国人だから、ハードルが一気に上がる。しかも北欧人だから、身長も2メートル近い。

だがニッポンのおばんには、「イケア」の「ア」の発音がすこぶる難しい。何度挑戦しても、「イケヤ」になってしまうのは、やはりお店=「〜屋」という発音イメージが染みついているせいだろうか。

そしておばんは、間違って池谷幸雄に抱かれるのだ。おばんは彼のことを、終始「イケヤ」と呼び続けた。しかし彼は、名字の読み間違いなど気にしない強靱な精神力を持っている。選挙カーの上でその胸に抱かれたまま、逆立ち。それもまた女として幸せな人生である。

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