泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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ラッキーあるいはアンラッキー商法

良くも悪くも、世界は数字でできている。数字を制する者は、世界を制するのかもしれない。今日、それを思い知らされる出来事があった。

スーパーからの帰り道、八百屋の前を通ると、おばちゃんが店主らしきオヤジから、何かを買おうとしているところだった。しかしそちらはあえて見ずに、声だけ聞きながら歩いていたので、何を買おうとしていたのかはわからない。とはいえ八百屋なので、おおかた果物か野菜だろう。もしかすると店主かもしれないが、だとしたら大胆不敵な犯行現場となる。

おばちゃんが店主に品物を渡したらしく、店主はその個数を数え出した。八百屋における当然の流れである。

「はいはい、えーっと、1…2…3…4つ?」

それは4つだった。ここでようやく、おばちゃんが買おうとしているのが店主ではないことがわかった。しかし数え上げた店主の語尾が、なぜか責めるような疑問形になったのが気になった。その理由は、続く台詞によって明確に語られることになる。

「あー、4つは駄目だね。5か6にしな。4は悪い数字だからね」

まったく新しい商売方法がそこにはあった。おばちゃんは迷った末、「じゃあ5個で」と結局5つ買っていた。6を選ばなかったのは、彼女なりのせめてもの抵抗と見るべきだろう。

一方この店主がもっと悪い奴ならば、「7のほうがラッキーだから」とか言って、7つを勧めていたかもしれない。しかし欲しい数よりも1、2個上というのは、リアルに売れる線としてはあざといラインなのかもしれず、むしろ悪質であるとも言える。

その直前、僕はスーパーでりんごを6個買っていたのだが、それは6個セットで販売されていたからで、本当に欲しいのは4個だった。正直、6個を新鮮なうちに平らげる自信はない。もしこれが7個セットだったらさすがに諦めていたかもしれないと思うと、やはりあの八百屋のオヤジ、警戒すべき人物である。

あの八百屋で何かを4個買う。世界を変えるのは数字ではなく、そんなチャレンジ精神であってほしい。僕ならば次のように言いたいと思うが、たぶん言えない。

「あ、じゃあ3個で」

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