泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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青空のもと白けた面で赤い服を着て

人の好みはそれぞれ意外とハッキリしているものだから、気づいたらクローゼットに似たような服ばかり並んでいる、というようなことはよくある。これに対処する方法は、おそらくは今のところない。

今日僕は赤×白のTシャツを着て青×白のスニーカーを買いに行くも店頭にそのスニーカーはなく、代わりに首と袖口のリブ部分に、そうリブ部分に赤青白チェックの入った赤ジャージを買った。「リブ部分」と言いにくかったのであえて重ねて言ってみたが、書く分には書きづらくもなんともなくて残念。

何が言いたいのかというと、結果としてなんとなく辻褄があったような気がする、ということ。青×白を求める赤×白の自分が赤×青×白のものを買ったのだから、そこにはなんだか、現実と理想を両方そつなく手に入れたような全能感がありはしないだろうか。何か公式を解いたような爽快感が。

実際にはまあ、そうでもない。基本的には赤い服なので。リブ部分以外赤ってのは、つまり一般には赤い服ってことだろう。

しかしここで考えなきゃならないのは、赤い服を着て店に行くと、赤い服を勧められがちだという点である。店員にとってはそこ(来店時に着用している服装)しか顧客の好みを掴む手掛かりはないのだから、当然といえば当然のなりゆきではある。

たとえば今日の僕は青×白のスニーカーを求めてその店に行った。しかしもちろんその意図は見えないから、店員には一切伝わっていない。いやたとえそれを店員に伝えたとしても、じゃあ青×白のジャージを勧められたら、僕は買わなかったと思う。なぜならば、僕が欲しかったのはスニーカーであってジャージではないから。このへんの機微はひどく難しい。機微というほどのもんじゃあないが。

しかし赤×白のTシャツを着ている人間に、青×白の何かを勧めてくる店員がいたとしたら、その人はそこそこのチャレンジャーだと思う。白という共通点はあるものの、多少の白ならばどんな服にでも結構入っているから、それはたいした保険にはならない。その客が着ている赤から、その客の頭の中にある青を想像してお勧めする。そんなアクロバティックでブレイヴな行為を、もし自分が店員の側だったらならばできるだろうか? さらにはスニーカーを求めている客にジャージを勧めるなど、もはや魔法レベルの離れ業ではないか。

という風に考えていくと、今日は特に店員に勧められたわけでもないのだけれど、青×白のスニーカーを求める赤×白のTシャツを着た客が赤×青×白のジャージを買っていく光景というのは、その色の具合といい、「スニーカー→Tシャツ→ジャージ」という品目のねじれ具合といい、なんだか妙にいい按配の「落としどころ」だったように思えるのだった。

まあ結果的には、またひとつ赤い服(よく見ると赤くない部分が少しある)がクローゼットに並ぶわけなのだが。

人の好みは、意外とハッキリしているものだから。

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