泣きながら一気に書きました

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『LEAVE THIS TOWN』/DAUGHTRY 『リーヴ・ディス・タウン』/ドートリー

日本では最も認められづらいタイプの「地味いい」アルバムであり、だからこそ僕らは耳を傾ける必要がある。こういう良質なアーティストを見逃し続けてきたことが、いまの日本の洋楽シーンを痩せ細ったものにしてしまっているのだから。

全米年間No.1ヒットを記録したデビュー作に浮かれることなく、あくまでも「質」を追求した姿勢には頭が下がる。それは本人の意志だけでなく、関わっているスタッフ全体の向いている方向が、センセーショナリズムではなくきちんと「質」を目指しているということでもある。「良いものを作れば売れる」という信念が、いまどき珍しく貫かれている。「売れ線」の侮れないところは、それが結果として素直な「質の追求」へと向かう場合があることだ。

チャド・クルーガー(NICKELBACK)、ミッチ・アラン(SR-71)、ベン・ムーディー(元EVANESCENCE)ら鉄板作曲陣の起用も、その利点がきっちりドートリーという歌い手の個性に回収されているため、結果としてはいい意味であまり効いていない。もちろん1stシングルの②“No Surprise”あたりには明らかにNICKELBACK風味のカントリー臭が色濃く漂ってはいるが、楽曲のクオリティとしてはむしろその他の曲のほうが高いため、これは作品中のアクセントとして理解すべき楽曲であると思う。むしろ日本人にとっては、「カントリー=地味」という認識があるように感じる(たとえばBON JOVIの近作)ので、対日本市場としては邪魔な路線かもしれない。もちろん、アメリカ本国向けには新たな武器となるだろうが。

一聴した印象では、どうしてもこの一曲のインパクトが後を引くのと、全体の音作りが前作よりドライであるせいで「カントリー風味の強いアルバム」と思ってしまいがちだが、けっしてそういうわけではない。アコースティック楽器の多用、緩急や起伏に乏しい楽曲展開、バック陣の堅実だが派手さに欠ける演奏など、それ以外にも本作を地味と感じさせる要素は枚挙にいとまがないほどだが、聴き込むうちにそれらの問題点は「歌中心主義」に問題なく回収されてゆく。つまりはすべてが「歌を引き立てるために機能している」=「適材適所」であり「適性分量」であるとポジティヴに理解することが可能となるわけだが、それはもちろん、「歌メロが飛び抜けて優れている」ということが前提条件となる。

大事なのは、その肝心の歌メロが前作以上に「湿り気を増している」という点で、それは本作の乾いた音作りに埋もれがちで見えにくい部分ではあるのだが、絶対に見逃してはならない要素でもある。それは「泣きのメロディ」と言い替えてもいいが、前作ではそれら「泣きメロ」を可能な限り派手に演出して盛り上げる手法が取られていたのに対し、本作ではできるだけその素材を生かし、なるべく自然体で提供するという「戦略」が取られている。当然それは「素材」に対する自信を深めたがゆえに取りうる「戦略」であると思うが、「素材」そのものの味に気づけというのは、ある意味聴き手に対する高度な要求でもある。受け手の全員がソムリエレベルの神経質な舌を持っているわけではないし、素材の甘みが出るまで噛み続ける根気と積極的姿勢が備わっているわけでもない。

そういう意味では、これは至極不親切な作品でもある。特に日本人にとっては、あらゆる派手さに欠けるぶん前作以上にハードルは高い。本作の「核」となる部分にある「泣き」に辿りつける人がどれくらいいるのか、おそらくその数はあまり多くはない。そのためには、かなり積極的な姿勢が要求されるだろうが、そこまでこのバンド、あるいはドートリーという人間に興味を持っている人は、残念ながら日本にはあまりいないだろう。しかし音楽に限らず、芸術あるいはエンターテインメントには積極的姿勢を受け手に要求するタイプの作品があり、それは必ずしもマイナー作ばかりでなく、こういった大メジャー作にも存在するのである。おそらくアメリカ人にとっては、本作は受け身でいても自然と染み込んでくる要素(たとえばカントリー風味や普遍的な母国語詞など)を多く持つ作品なのかもしれないが、日本人にとっては意外と入口を見つけづらい作品だと思う。

しかしこの優れた作品の本質的魅力に辿りつかず踵を返すのは、あまりにもったいない。こういう良質な作品を聴き込むことで見えてくる扉が必ずあり、未開状態の聴き手を導き育ててくれるという意味でも、広く聴かれるべき作品である。「ロングセラー」という現象がほぼなくなってしまった今の日本の音楽市場に対し、前作が現時点で144週もビルボードTOP200に居座り続けているこのDAUGHTRYという存在は、はからずも強烈なメッセージを放っているように思う。

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