泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

     〈当ブログは一部アフィリエイト広告を利用しています〉

『GLYDER』/GLYDER 『グライダー』/グライダー

アイルランド出身の4人組によるデビュー作。英国の音楽誌『KERRANG!』でいきなりの高評価を得たことが評判を呼び、日本でも輸入盤である程度話題になったものの、その後日本盤が出たころにはあまり取り沙汰されることもなくなってしまっていた。しかし中古盤の値崩れを機になんとなく買ってみたところ、これが意外と良質な作品でうれしい誤算。てっきり同郷のTHE ANSWERか、あるいは米国新興勢力のBLACK STONE CHERRYあたりと並べて語られるバンドかと思いきや、同じ骨太レイドバック系ではあってもまるで違う印象。

歌い上げるよりは語りかけるようなVoとツイン・リードの導入加減は、かなりTHIN LIZZYの影響を感じさせる。しかし曲調はあそこまで硬軟とり混ぜた感じではなく、基本的には疾走曲連打で突っ走る方向。個人的には、THIN LIZZYの作品に意外と多く含まれるまったりした成分があまり好きではないので、スピード感に的を絞った武骨な作りには好感が持てる。それでもVoの声質が極度にまろやかであるため、疾走感はあっても尖ってはいない。そこはかなり好みが別れるところで、全体にNWOBHM的なマイナー臭が漂っているのは、THE ANSWERなどにはない美点ではありつつも、メジャーになりきれない欠点でもあるだろう。

レイドバックした'70年代的な音像は、スパイスが歌っていたころのSPIRITUAL BEGGARSを思わせる。もちろんここにはマイケル・アモットの博学的なバリエーションはなく、疾走一辺倒ではあるのだが、それが潔さにも繋がっていて心地好い。さらにはVoのマイルドな声質も考えると、実のところ同じくマイケル・アモット絡みで、その弟クリストファー・アモットが自らVoを取って賛否両論を呼んだARMAGEDDONの3rd『THREE』に非常に近い。ARMAGEDDONは作品ごとに大幅なシフト・チェンジを繰り返し、その度ごとにファンを失っていった印象があるが、実はそれぞれにクオリティの高いアルバムを送り出していた。

走るリフに絡みつく歌メロにはある種の中毒性があり、ひょこひょこと飛び出してくる意外な歌い回しが面白い。だがそのアクの強さはバックの疾走感によってうまく中和されているため、アバウトに聴いているぶんには案外スムースに響いてくる。とはいえ実際に歌ってみろと言われたら他人には絶対に歌いこなせない独自のラインを歌っており、それがこのバンドにとっての武器になるのか自爆装置になるのかは別にして、間違いなく個性の中心を成している。とにかくライヴを観たくなるタイプのバンドである。

Copyright © 2008 泣きながら一気に書きました All Rights Reserved.