泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『ULTRA BEATDOWN』/DRAGONFORCE 『ウルトラ・ビートダウン』/ドラゴンフォース

そもそも完成度の高い様式美HMというジャンルを進化させようという試み自体に無理がある。だがその無理こそが力強さと美しさを生む。無理な出発点から生まれたアイデアは、その無理をくぐり抜けてきた分だけ純粋な力を手に入れる。せめぎあう岩の隙間を通り抜けて濾過され純化されてゆく岩清水は、その困難な過程の分だけ美しい。

正直言って限界はもうすぐそこに見えている。だがそれは彼らが1stを出したときからすでにあった不安であって、この4作目にしてまだ限界の手前にいることは奇跡的ですらある。「既存のジャーマン型様式美メタルを高速化しただけ」という身も蓋もない批判は、彼らのどの作品をとっても間違いなく正解だが、根底にあるメロディの良さを見逃してはならない。単体のメロディが良いというレベルではなく、それが二つ三つと連鎖していく精度の高さは、ここへ来てさらに高まっている。

今作にはミドルテンポを基調とした⑤⑥といった曲が収録されており、それが「新境地を開拓!」あるいは「すわ失速か?」と聴き手を一瞬惑わせる。しかしそれらは実のところ、アルバム中のアクセントとして機能しているといった程度で、取り立ててプラスでもマイナスでもない。

それに比べ、本当の新境地と言えるのはラストを飾る日本盤ボーナス・トラックの⑪“E.P.M.”。ひと昔前のゲーム音楽を思わせるピコピコ風味のデジタル音による導入部に違和感を感じつつ、全体の枠組みはこれまで通りの高速曲で特に変化はない。しかし楽曲の核をなすメロディに、これまでにない「陰」の感触があり、そこが妙に新鮮に響く。

元来彼らのベースにあるメロディは、HELLOWEENで言えばカイ・ハンセンの作る曲に見られる「陽」タイプの旋律であり、そこが異様な速さの中にもある種の軽快さを生み出していた。しかしこの曲におけるメロディは、HELLOWEENにおいてマイケル・ヴァイカートの楽曲が放つ「陰」を感じさせるものであり、それが可能性を感じさせるに充分なクオリティを持っているのは嬉しい驚きだ。ボーナス・トラックにしておくには明らかにもったいない出来だが、メロディの方向性からして、この曲が本編にそぐわないという判断基準も理解できる。だがこの先、この手の「陰」の要素を持つ楽曲をアルバム中に放り込むことで、また新たな次元が開けてきそうな予感がある。

とはいえ、聴き通すと途中で飽きるという問題は相変わらずなのだが…。

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