泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

     〈当ブログは一部アフィリエイト広告を利用しています〉

短篇小説「抽選の多い料理店」

近ごろ、美食家兼ギャンブル好きのあいだで評判のレストランがあるという。その店は、「抽選の多い料理店」と呼ばれている。「抽選の多い料理店」を訪れるには、まず抽選に当たらなければならない。なにしろ「抽選の多い料理店」なのだから、当然の話である…

短篇小説「親切な訪問者」

とある休日の昼下がり、私は自宅で時間指定の宅配便を待っていた。指定した時刻は十四時~十六時。そしてラジオの時報が十四時を知らせた瞬間、早くも部屋のインターホンが鳴った。 こんなことは珍しい。こういうのはたいがい中途半端な、最も来られては都合…

コロナ禍頻出語迎撃用メタルソング13選

コロナ禍に頻出しているキーワードにまつわりそうでまつわらない、でも頑張ればまつわっているように聞こえなくもない感じの、主にメタルソング13選を貴方に。【自粛警察】 通報者の動機はきっと――St. Anger、 www.youtube.comだがその光景は客観的に見れば―…

短篇小説「過言禁止法」〈改稿〉

SNSの流行により日本語は乱れに乱れた。どう乱れたかといえば端的に言って万事表現がオーバーになった。 短文の中で自己表現をするとなれば、自然と過激な言葉に頼るようになる。さらには、ただ一方的に表現するだけでなく互いのリプライによる相乗効果も働…

短篇小説「桃太郎そのあとに〈童話後日譚〉」

かつてない鬼退治の大成功により、その中心人物である桃太郎の人気は爆発した。 民衆に甚大な被害をもたらしていることを認識していたにもかかわらず、その事実を隠蔽して鬼を放置し続けてきた時の政権はにわかに求心力を失い、鬼に苦しめられてきた人民の誰…

短篇小説「豚に真珠そのあとに〈ことわざ後日譚〉」

豚は戸惑っていた。今朝、飼い主である王様から突然に、真珠の首飾りをかけられたからである。それはとてもキラキラと輝いていたが、残念ながら美味しそうには見えなかった。きっと口には入れないほうがいいだろう。 豚は最初、一部の凶暴な動物たちのように…

短篇小説「犬も歩けば棒に当たる〈ことものわざがたり〉」

これは紆余曲折を経て、最終的に犬が歩いて棒に当たるまでの話である。 犬が、歩いていた。あるいは、歩いている犬がいた。場所はどこにしようか。とりあえず街中にしてみようか。 犬の前にまず、電柱が現れる。これは棒と言えるだろうか。かなり長くて大き…

短篇小説「かつぎ屋」

その日の私は、とてもかつぎたい気分だった。舌先三寸で難攻不落の某大手企業を口説き落とさなければならないという、かつてない大仕事が翌日に控えていたからだ。我が社の命運をかけた新商品のプレゼンを、私は任されていた。こんなときは何かしらかつがな…

ディスクレビュー『SHAKE THE WORLD』/BLACK SWAN

Shake the Worldアーティスト:Black Swan発売日: 2020/02/14メディア: CD元MSGのロビン・マッコーリー、元WINGERのレブ・ビーチ、元DOKKENのジェフ・ピルソンらによる「スーパー・バンド」――と言いたいところだが、実際には「サブキャラ(二番手以降キャラ)…

短篇小説「逆接さん」

その魅力を語るには、どうしても逆接を用いずして表現できない女、それが「逆接さん」である。 逆接さんは魅力的な女性ではあるが美人ではない。身長は高くないが実際の身長を聞いてみると、それよりはだいぶ高いなと誰もが思う。性格は温厚だけれども激しい…

短篇小説「桃太郎ネガ」

むかしむかし、ある暗雲たちこめる鬱蒼とした僻地に、中二病のお爺さんと、実年齢よりもはるかに老けて見えるお婆さんがいました。 ある日、お爺さんは自殺の名所として有名な山へ柴刈りに、お婆さんは上流にある工場排水で汚染された川へ洗濯に行きました。…

思いついたこと思いついた順に書くぞ日記

このブログもすっかり短篇小説だらけになっているが、そもそもは日記を書くためにはじめたような気がする。音楽や『M-1』のレビューを書くためだったかもしれない。いずれにしろ、小説ブログになるはずじゃあなかった。だがそれはそれでいい。むしろ小説のほ…

短篇小説「喩え刑事」

管轄内で立てこもり事件が発生したとの通報を受け、喩え刑事がパトカーで現場へ急行した。五十代の男が、別れた妻とその娘を人質に立てこもっているという。 喩え刑事は、助手席に乗るゆるふわパーマの新米刑事に言うでもなく呟いた。「いま俺たちは、まるで…

短篇小説「未然ちゃん」

天災人災事件事故、何もかも自分が未然に防いだと言い張る彼女のことを、人は「未然ちゃん」と呼ぶ。ひょっとすると、世界は未然ちゃんのおかげでなんとかまわっているだけなのかもしれない。 三月の未然ちゃんは、とある高校の掲示板の前にいた。その日は入…

短篇小説「人望くん」

どこの世界にも、いったいその人がなぜそんなに評価されているのか、その要因がどうにも思いあたらない人物というのがいる。イケメンでも演技派でもない大御所俳優。美人でも巨乳でもないグラビア女王。失言まみれ汚職まみれの大物政治家――。 挙げればキリが…

短篇小説「某気茶屋」

そう、ここは繁華街にある居酒屋『某気茶屋』。今日も我が店は、あらゆる「気」にあふれている。 その原動力となっているのが、各店員がそれぞれに放っている「気分」である。我が店ではスタッフの個性を重視して、各人の胸の名札に、苗字とともに「その日は…

短篇小説「い・ら・な・いオートマティック」

二十二世紀に入り、この世のあらゆるものが自動になったが、どこを自動化するかは個々人のセンス次第だ。 僕は毎朝八時に目を覚ます。もしも寝ぼけてスマホのアラームを止めてしまったとしても、まったく問題はない。五分後に再びアラームが鳴ったときには、…

短篇小説「鶴太郎の恩返し」

むかしむかし、北の国の山奥に、とある老夫婦が住んでいた。ひどく雪の多い冬だった。 ある日、お爺さんはたまの晴れ間を縫うように、森へ柴刈りに行った。森の奥へと歩いてゆくと、さっきからずっと鳥の鳴く声がしていることに気づいた。それは「キューちゃ…

短篇小説「鶴よ恩返せ」

むかしむかし、北の国の山奥に、とある老夫婦が住んでいた。ひどく雪の多い冬だった。 ある日、お爺さんはたまの晴れ間を縫うように、森へエロ本を拾いに出かけた。山道の脇に、よく落ちているのだった。お婆さんには「柴刈りに行く」と嘘をついて出てきた。…

短篇小説「某校の卒業式」

今日は晴れて我が校の卒業式であった。それはこのたび、晴れて卒業を迎えた私にとって忘れられぬ卒業式となった。忘れるほうが難しい、といったほうが正確かもしれない。 我が校の卒業式は、廃線となったかつての最寄り駅のホームを貸し切りにして行われる。…

電子書籍『悪戯短篇小説集 耳毛に憧れたって駄目』無料配布キャンペーンのお知らせ

このたび、久々に拙著電子書籍の無料配布キャンペーンを開催することにしました。そうです。このたびの新型コロナウイルス絡みで、いろんなところが部屋にこもらざるを得ない子供たちのためにと、無料キャンペーンを行っているのを見て、僕も何かしなければ…

短篇小説「アバウト刑事」

トレンチコートのようでトレンチコートでないような、いやコートとすら言えないかもしれないアバウトな上っ張りの襟のような一帯を立て、今日もアバウト刑事が事件の捜査を開始する。具体的にそれがどんな事件かと問われれば答えようがない。なぜならば彼は…

書評『ハンバーガー殺人事件』/リチャード・ブローティガン

「人生は選択の連続である」という言葉がある。自分でもそれを痛感することは多い。試しに検索窓にそう入力してみると、「シェイクスピア」や「ハムレット」といった関連ワードが出てくるが、もう少し調べるとシェイクスピアの『ハムレット』にそのような言…

トイレットペーパーの変

新型コロナウイルス絡みのデマに踊らされてトイレットペーパーを買い占めた奴らの部屋に、アメマバッジの大量在庫が降り注ぐといい。アメマバッジがわからない人は、ぜひこちらを読んでみてほしい。泣きながら笑えると思う。二・三個なら僕だってだいぶ欲し…

書評『モレルの発明』/アドルフォ・ビオイ=カサーレス

モレルの発明 (フィクションの楽しみ)作者:アドルフォ ビオイ=カサーレス出版社/メーカー: 水声社発売日: 2008/10メディア: 単行本ガルシア=マルケス、ボルヘスとともに南米文学を代表するカサーレスの代表作、らしい。「カサーレス」=「傘レス」=「傘がな…

短篇夢小説「目覚めのチャーハン」

引っ越したばかりの新居で目を覚ました私は、どうやら自分が床で寝ていたことに気づいた。そんなことはこれまで一度もなかった。引っ越したてなのでまだベッドがないのかもしれなかった。しかし引っ越すとしたら、真っ先に寝床の心配をするのが自分であるよ…

企画倒れの「五字熟語」

思いついたときは電球が光るようなひらめきを感じたのに、いざ本腰を入れて考えてみるとちっとも面白くないということはよくある。いわゆる企画倒れというやつである。世の中の企画書の冒頭に書かれているのは、大半がこのようなアイデアと相場が決まってい…

短篇小説「ドーナツ化商談」

「なんだこれは。話が違うだろう!」 「違うってほうが違いますよ」 「今どきこんな大きいの、誰が買うんだよ」 「大きくないですよ。むしろこれが小さいっていう人が古いんですよ」 「これが大きくなかったら何が大きいと?」 「そら十年前だったらこれでも…

短篇小説「絵馬神」

絵馬専門の神を「絵馬神」という。絵馬というのはもちろん、願い事を書いて吊るす五角形のアレである。近ごろは神様の仕事も分業化が進んでおり、絵馬神は絵馬に書かれた願いごとを叶えること以外やってはいけないことになっている。いわゆる働き方改革とい…

映画評『パラサイト 半地下の家族』

この作品、とにかくTwitterで僕の信頼している映画好きの人たちが絶賛していて、居ても立ってもいられず観に行ってしまった。そういう場合、鑑賞前に期待のハードルが上がりきって越えられないことが少なくないが、本作に関しては見事に越えてきた。〈半地下…

Copyright © 2008 泣きながら一気に書きました All Rights Reserved.