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短篇小説「ALWAYS 二番目の銀次」

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 あまり知られていないが、あらゆるジャンルでコンスタントに二番手のポジションを獲得し続けてきた男がいる。男の名を銀次という。皮肉なことに、銀次はその出生からして二番目であった。だがそれは、いわゆる「次男」という意味ではなく。

 山に、老夫婦が住んでいた。ある日お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯にいった。すると川上から、どんぶらこ、どんぶらこと、大きな桃が流れて来たのだった。お婆さんは桃を家に持ち帰り、その桃からは桃太郎が産まれ、彼はのちに鬼退治を遂行するなどしてレジェンドとなった。

 しかし実際には、川上から流れてきた桃はひとつではなかった。お婆さんが立ち去ってまもなく、二番目に流れてきた桃があった。その二番目の桃は誰にも拾われることなく、永遠のどんぶらこを繰り返して海へと流れ着いた。そして大海のど真ん中で、内圧により自力で割れた。そうして産まれたのが銀次であった。

 だが銀次が産まれた海は鬼ヶ島からはほど遠く、鬼退治に向かう動機など皆無であったから、彼に注目する者など誰もいなかった。そしてここから、彼の「二番目の人」としての数奇な人生が始まった。

 割れた桃をボート代わりにしてなんとか陸へ上がった銀次は、そこにいた大人たちに適当なパンツを穿かされ、ちょうどそこで開催されていた謎のマラソン大会に参加することになる。

 それは動物だらけのマラソン大会で、スタートまもなくウサギがトップを快走。しかし余裕をぶっこいたウサギが途中で昼寝をかましているあいだに、ゆっくりと、しかしコンスタントな走りで追い上げてきたカメに抜かれ、カメが逆転優勝を飾るという、なんとも教訓めいた劇的展開を見せた。

 いっぽう銀次は、普通に走って二位だった。なんならカメがウサギを抜いた際に、銀次も一緒に抜かれていた。しかしウサギのような問題行動も起こしていなかったため、二位の銀次が注目を浴びることは一切なかった。一位のカメだけでなく二位の銀次も、大会新記録ではあったのだが。しかも産まれたてである。

 銀次は走るのがそこそこ得意であった。青年になった銀次は、ある朝、街中をジョギングしていた。すると彼を猛烈なスピードで追い抜いていく半裸の男がいた。銀次は男にぴったりついて夕刻まで走り続け、抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げたが、最終的に男は刑場のような場所へと吸い込まれていってしまったため、銀次は路上に取り残された。これも事実上の二位ということになるのだろうか。

 銀次は警備員を振り切って刑場へと走る半裸男の背中に名を尋ねた。男はただひとこと「メロス」と答えた。銀次には走る動機も使命感もなにもなかった。詳しくは訊いていないが、男にはその二つがとても強くあるように見えた。

 メロスと名乗る男とのレースで心に空虚さを感じた銀次は、ほどなく出家した。当時、巷では「とんちの利く僧侶」が評判を呼んでいたため、それに対抗して銀次は「マジックのできる僧侶」として売り出すことになった。

 やがて銀次はその評判を聞きつけた将軍に呼び出され、屏風に描かれた虎を縛り上げろと申しつけられた。実は銀次より先に、とんちの利く小僧に同じお題を出したのだが、「将軍様が虎を屏風から出してくれないと、縛り上げることはできない」などと屁理屈をこねて言い逃れに終始したという。つまり銀次は、二番目に呼ばれたというわけだ。

 しかし銀次はマジシャンなので、とんち小僧と違って本当に屏風から虎を出せた。飛び出したリアルな虎は暴れ回り、将軍に噛みついて松島トモ子クラスの大怪我を負わせた。

 どう考えてもとんち小僧よりマジシャン銀次のほうが凄いことを成し遂げているのだが、血が出てしまったため銀次の部分は番組上オールカットになってしまい、将軍の怪我も詳細は伏せられた。どうやらバラエティ番組の企画であったらしい。結果、唯一オンエアされた小僧のとんちが大々的にフィーチャーされ、彼は一躍スターダムにのし上がった。小僧の名を一休という。

「俺は何をやっても二番目で、誰からもまったく評価されることがない。どうせ俺なんて……」そう思い悩みながら銀次が浜辺を歩いていると、一匹のカメが子供たちにいじめられている場面に遭遇した。

 銀次はとっさに、マラソンで鍛えた肉体と修行により身につけたマジックを駆使してカメを救出。するとカメは何かお礼がしたいと言い出し、銀次を乗せて海に潜ると、海底にある城へと誘った。城内の宴会場で歓待を受けたほろ酔い状態の銀次は、カメによって再び陸へと送り届けられた。

 翌朝、浜辺で目覚めた銀次は、自分がもっともらしい木箱を大事そうに抱えていることに気がついた。赤い紐をほどいて木箱を開けると、どういうわけか中には何も入っておらず、もちろん白い煙がもくもくと立ちのぼるようなこともない。特に何も起こらなかった。

 銀次が海底への行き帰りにカメから聴いた話では、カメが人に助けられたのは二度目の話であり、最初にカメを助けたのは太郎というありふれた名前の男であったという。

「きっとこの箱は使いまわしで、その太郎とかいう不届きな輩が中のお宝を全部持っていった抜け殻を、俺は渡されたに違いない」

 箱はたしかに使いまわしであった。二番目のほうが良いことも、どうやら世の中にはあるらしい。


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耳毛に憧れたって駄目―悪戯短篇小説集 (虚実空転文庫)

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