泣きながら一気に書きました

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文体実験型短篇小説「順接ブレイクダウン」

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 喉が渇いたからといって水を飲みにいくとは限らない。

 就活生の何故彦は面接の出来がさんざんだったので、帰りにコンビニへ寄って牛乳を買った。もしも面接で充分な手応えを感じられていたならば、彼はきっとミネラルウォーターを買っていただろう。どちらが好きだからというわけではない。ただ理由と結果だけが、それぞれ孤独に存在している。その間のつながりなど、誰も知らない。

 コンビニを出た何故彦は、買った牛乳を一気に飲み干すと急にお腹が痛くなってきたので、欲しい漫画の新刊が出ていたことを思い出した。さらにその格闘漫画のことを思い浮かべると、もうだいぶ前から台所用のスポンジを買い換えなければならないと感じていたことに気づいた。

 しかしとりあえずお腹が痛いので、何故彦は通りすがりに見つけた公園のベンチに腰掛けてスマホのパズルゲームをプレイすることにした。パズルゲームはすでに課金しなければ難しい段階へ差しかかっていたため、何故彦はベンチで大仰に足を組んだ。足を組むと空が曇ってきて、曇ると右の耳たぶが痒くなった。

 向かいのベンチでカップルが喧嘩をはじめたので、何故彦はパズルゲームに課金した。まもなくカップルは口論を続けたまま公園から出ていったため、何故彦はさらに課金した。

 すると隣のベンチに大型犬を連れたお爺さんが座ったので、何故彦は革靴の紐をいったんほどいてからしっかりと結びなおした。老人が不意に話しかけてきた。

「君が靴紐を結び直してくれたおかげで、ずいぶん話しかけやすくなったよ」

 しかし老人はそれ以上何も言わなかったので、何故彦がいま一度靴紐を結びなおすと、大型犬が老人の手綱を振り切って猛然と駆け出した。老人は思いがけず犬に逃げられたので、ポケットからさきいかを取り出してしゃぶりはじめた。

 雨が、降ってきた。

 何故彦は傘を持っていなかったので、老人からさきいかを一本もらった。雨が、弱くなった。

 すっかりずぶ濡れになってしまった何故彦は、いっこうに犬を探しに行かない老人に別れを告げ、公園をあとにした。まだ夕飯には早いが腹が減ったので、ふと目についた模型店に寄って心ゆくまでお城のプラモデルを吟味した。

 お気に入りの城プラモと空腹を抱えて家に帰り着いた何故彦が息つく間もなく、インターホンが鳴った。ドアを開けると、そこにはまだ濡れた毛の乾ききっていない大型犬が鎮座していた。しかしこれはさっきの老人が連れていた大型犬ではない。

 何故彦はそっとドアを閉めると、急にお腹が痛いことを思い出したので、じっくりと腰を据えてプラモデルの作製に取りかかった。

 
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