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短篇小説「河童の一日~其ノ十七~」

 今日はインフルエンザで一日じゅう寝ていた。インフルエンザといっても河童用インフルエンザであって、河童から河童へと感染するのみだから安心してほしい。今のところ人間に感染した事例はないから、もしうつったとしたら、その人は少なくとも何割かは河童であると思ったほうがいい。背中の甲羅が焼けるように熱い。

 河童エンザもインフルエンザの例に漏れずやはり高熱がしんどいので、どうにかしてヘッドソーサーを冷やさなければならない。しかし河童の頭は終始濡れているので、冷えピタは貼りつかず物の役に立たない。だからといって貼りつけるために皿を完全乾燥させてしまえばそれこそ致命傷で、もはやインフルエンザどころではない。河童にとってドライヤーは拳銃に等しく、その熱風はすなわち弾丸である。

 そもそもウチの家計に冷えピタを買う余裕などなく、僕らのヘッドソーサーはただでさえ人間のおでこより広大であるため消費枚数が甚だしく、その利用はハナから諦めざるを得ない。

 人間のドラマなどでは、よく冷やしたタオルを額に乗せている光景を見かけるけれど、あれも河童には危険極まりない殺人行為、もとい殺河童行為であるということをこの際お伝えしておきたい。タオルというものはどんなに冷やしていようと濡らしていようと、それが熱せられた場合、やがて乾きゆくものだからである。

 そして乾いたタオルは、突如として河童にとっての拳銃に変わる。ヘッドソーサーを乾かすものは、もれなく我々に突きつけられた拳銃となる。河童にとっては日本もすっかり銃社会である。 
 
 つまり河童の頭を冷やすためには、「冷たくて、なおかつ水分を奪わないもの」が必要となる。結果、うちの母親がいつも用意してくれるのは、「冷やしたこんにゃく」と相場が決まっている。

 それ自体ヌルヌルしているから水分を奪われる心配がないし、保冷能力もそこそこあって、さらに安いという三拍子揃ったスグれもの。とはいえもちろん粘着力はなく、頭に乗せたまま横になることはできないから、泥棒スタイルで顎の下へ手ぬぐいを回して固定する必要がある。あとだいぶ臭い。枕まで臭い。布団まで臭い。

 だからインフルエンザが治ったら、必ず川で布団の洗濯をしなければならない。河童は始終湿っているため清潔感がないと思われるかもしれないが、頻繁にファブリーズも浴びるし床に敷き詰めたフリスクの上を転がったりもするから、今どきそんなに臭くはない。

 もし川で布団を洗濯している河童を見かけたら、病み上がりに違いないので必ず優しくしてあげてほしい。そして願わくばよく湿った一本のきゅうりを。


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