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短篇小説「いい意味で唯々男」

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飯田唯々男はいい意味でいい加減な男だった。唯々男はいつもいいスーツをいい具合に着崩していたが、そのラフさが彼をいい意味でいい人に見せていた。

そのうえ唯々男は近ごろいい感じに太ってきているため、勢いよく息を吸い込んでスーツのボタンを留めるといい意味ではちきれんばかりになってしまい、そこから下手に息を吐いたが最後、いいように全ボタンがはじけ飛んで、せっかくのいいスーツがいい按配でつんつるてんになってしまうのではないかと思われた。

そんな唯々男46才もいい歳こいて恋をした。相手はいい意味でいい女すぎないOLの吉田良美で、彼の職場のいい感じに使えない部下がいい加減な気持ちで主催したいい意味で気の置けない合コンで知りあったのである。

しかし良美はいい意味で手ごわい女だった。いい意味でいい女すぎない良美は、逆にちょうどいい程度に声をかけやすいという理由からこれまでいい具合にモテ続けてきたらしく、唯々男は彼女からのいい意味で小悪魔的なメールの返信にいいように翻弄された。

そして彼はいい意味で思い悩むことによりいい調子で食欲をなくし、最近いい感じに太り気味だった体がさらにいい感じに痩せていったのであった。

だが結局のところ、この恋はいい意味で上手くいかなかった。なぜならば良美にとって唯々男はいい意味でいい感じにいい人過ぎて、いい具合にいい人止まりのどうでもいい人だったからである。

いい意味ですっかり傷心した唯々男は「ヤケ食い」という名のもとに威勢のいい食欲を取り戻し、再びいい感じに太りはじめたが、この太り方のいい感じは良美との恋に悩んで痩せる前の太り方よりもさらにいい感じの太り方だった。

そうしていい意味で失恋を糧に再び仕事に打ち込みはじめた唯々男は、やがていい関係にある取引先との重要な会議にいいポジションで出席することになった。

普段はいいスーツをいい具合に着崩している唯々男も、このときばかりはいい具合にボタンを留めて、ちょうどいい広さの会議室の座り心地のいい椅子に着席した。そしていったん落ち着くために唯々男が大きくいいサイズの深呼吸をすると、いい具合に留められていたスーツのボタンがいい勢いかついいタイミングですべて中空に弾け飛んだ。

それらの描き出した放物線の絶妙にいい角度からして、彼の太り方がいま最高にいい意味でいい程度にいい按配でいい感じであることは間違いないように思われた。


◆「Good Man Shining」/JOHN NORUM

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