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短篇小説「かもしれない刑事」

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「こいつが犯人かもしれないし、あいつが犯人かもしれない。犯人かもしれなくない奴なんて、この地球上には誰ひとりいないのかもしれない」

かもしれない刑事は、あらゆる可能性を信じる男だ。彼にとって確率の高低は意味をなさない。1%も99%も、「可能性がある」という意味において、まったく同じと見なされる。どちらも「かもしれない」ということだ。

お陰で常に容疑者は増えるばかりである。かもしれない刑事はいつでもどこでも聞き込みばかりしているが、それは「犯人かもしれない」人物が街中にあふれているからである。逆にいえば、「犯人かもしれなくないと確信できる人物」がどこにも見当たらないからである。

それは犯人がまだ捕まっていない以上、当然のことなのだが。犯人さえ捕まれば、「犯人かもしれない」人物たちは一斉に「犯人かもしれなくない人物」に変身する。しかし犯人が捕まってしまえば、もはや刑事が捜査する必要などないのである。

つまり、かもしれない刑事が聞き込みをしなければならないのは、誰もが「犯人かもしれない人物」に見えるときだけだ。

かもしれない刑事はいま、殺人犯を追っている。殺人犯は人を殺したのかもしれないし、殺していないのかもしれない。ということは逆に、殺人犯でない人は、人を殺していないのかもしれないし、殺したのかもしれないということだ。

ゆえに、かもしれない刑事にとっては、世の中の全員が容疑者ということになる。そう考えていくと、「全員」と言っている以上、その中にはもちろん自分自身も含まれるのかもしれないということに、かもしれない刑事はふと気がついたのだった。

思い立ったが吉日。かもしれない刑事は聞き込みを切りあげて職場へ戻り、とりあえず自首してみることにした。

職場の刑事たちはいちおう逮捕して聴取して釈放してあきれ顔。いつものことである。


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