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連載小説「二言武士」/第三言:一心同体岡っ引きシックス

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似たような物品を所持している者同士というのは、何かと親近感の湧くものである。

「御用だ! 御用だ御用だ!」

器物損壊の容疑をかけられた覆之介を取り囲んだ六人の岡っ引きたちはそれぞれ、胸の高さに十手を構えていた。それに対し覆之介も、現時点における自らの得物である「バールのようなもの」を、無手勝流に構えたというかなんとなく前へと突き出した。騒然となった団子屋の店内に、張り詰めた空気が走り一瞬の静寂が訪れた。

「あ、なんか似ちゃってるよね、それとこれ」

すっかり出揃った武器を前に、覆之介はなんとなく気づいたことを素直に口走った。すると思いのほか素直な六人の岡っ引きたちは、「言われてみればそうだな」と全員まったく同じタイミングで納得したのち、途端に恥ずかしい気持ちになり揃って同程度に頬を赤らめた。たしかに「バールのようなもの」は、微妙に十手に形状が似ていると言えなくもなかった。

「まあでも、似てないっちゃ似てないけど」

すわ大捕物か、という場の緊張感が一気にほぐれたところで、早くも覆之介の秘技・前言撤回が炸裂した。いつでもどこでも二言のある武士・覆之介の面目躍如である。前言とは正反対の意見を喰らった六人の岡っ引きたちは、全員もれなく再び「言われてみればそうだな」と思ったという。

さて、ここで困ったことに、六人の岡っ引きたちの脳内ではそれぞれ、「言われてみればそうだな」対「言われてみればそうだな」の激しい衝突事故が起こっていた。ある事象に対する正反対の二つの意見、ここで言えば「十手がバールのようなものに似ているか否か」というお題について、成否それぞれの意見に同じく「言われてみればそうだな」と賛同した場合、人はどういった行動を取るのか?

六人の岡っ引きの脳内で「言われてみればそうだな」と「言われてみればそうだな」が関ヶ原レベルの激戦を繰り広げた挙げ句、荒野に晒された敗残兵の如く残ったものは、「どちらとも言えるな」という、なんの行動にもつながらない「ゼロの意見」であった。

結果、六人の岡っ引きは例外なく思考停止状態に陥った。気づけば覆之介を含め、七人で互いの十手と「バールのようなもの」を見せあうなどしながら、団子を食し酒をあおり奔放に歌い踊っていた。実のところ六人の岡っ引きは異様に歌が上手く、手慣れた様子で十手をマイクのように構えると、驚くほど息の合ったコーラス・ワークで覆之介が繰り出す偏見まみれの珍妙なライムを見事に支えた。

ひとしきり歌い踊って飲み食い終わり腰を落ち着けたころ、六人の岡っ引きは覆之介の得物である「バールのようなもの」を見せろ見せろとせがみはじめ、ついには「やっぱこれ欲しい」「どうしても欲しい」の大合唱が巻き起こった。

当の覆之介は正直なところ、この「バールのようなもの」を完全に気に入っているわけでもなく、そう言われてみれば「まあバールのようなものでも十手でもどっちでもいいかな」と思わないでもなかった。

とはいえもちろん、お国からのオフィシャルな供給物である十手と交換してやるわけにもいかない。覆之介は岡っ引きの公パワーで店の勘定をタダにさせると、六人の岡っ引きに「バールのようなもの」を取り扱っている例の刀剣ショップを教えてやり、全員とLINEを交換して別れた。

帰り道、律儀な六人の岡っ引きから感謝のスタンプがひっきりなしに送られてきてウザいことこの上なかった。どれも同じく、笑顔で切腹している武士のイラストの上に、ポップな書体で「ありがとう」の血文字が陽気に躍っているという、恐ろしく感情の見えないスタンプであった。返信は困難を極めた。


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