泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

神よ、対応より製品に宿れ

久々に役所の本庁へ行くと、まるで『ドラクエ』に出てくる城のような迷宮的構造にすっかり幻惑される。昇って降りて回って回って回って。そんなこちらサイドの戸惑いを見越したように、入口を入ったところには案内窓口が設置され、窓口のお姉さんはすかさずマップを手渡しつつ流れ作業で経路の説明に入る。しかし考えてみれば城というものは、そもそもお役所機能を備えているものであったのだから、役所が城郭的構造を持っているのは、当然といえば当然のなりゆきなのかもしれなくて。

それにしてもこの案内所システム、迷える訪問者への「サービス」として一見親切なように見えるのだが、そう感じるのはちょっと人が良すぎる。そもそも案内所を必要とするような建物を建設すること自体「サービスが悪い」ということになりはしないか。その内部に案内所を置くという行為は、使いづらい建物を建ててしまったという失策を、「ああ、やっぱわかりにくいですよねここ」と自ら認めているということになる。つまり建物の設計段階においてその施設は、すでに「致命的なまでにサービス精神に欠けている」のである。

小学生のころ、何か悪いことをやらかした際に、先生から「お前、これが悪いとわかっててやったのか、わかんないでやったのか、どっちだ?」とよく訊かれなかっただろうか。まあどっちにしろ結局は叱られることになるのだが、基本的に「悪いと理解したうえで行う」という意識的な行為は、より重度の悪行とみなされ叱責の対象となりやすい。むろん案内係が建物の改築を手がけるなど無理な話だが、もしも案内係が「案内」という行為を純然たる「サービス」として提供しているつもりであるならば、その「サービス」の根底にあるのは自分たちサイドの「サービスの悪さ(=使いにくい建造物を拵えてしまったというしくじり)」という大きなマイナス要因であることを、あらかじめ自覚したうえでなければならないだろう。

そしてこのような「本末転倒」はけっして珍しい事態ではなく、日常のあらゆる場面に転がっている。

たとえばスマートフォンの修理。サポートセンター的な場所へスマホの持ち込み修理に訪れてみると、そのスペースはいつだってあまりに盛況で満員電車を思わせる。見渡せばサポートしてくれる店員の人数もべらぼうな数揃っており、いかにも「さすがサポートがしっかりしてるな」と思いがちだが、ここにもひとつの逆説が隠されている。これだけ多くの客がいるということは、それだけ「多くの製品が壊れている」ということであり、これだけ多くの店員が用意されているということは、あらかじめ「多くの自社製品が頻繁に壊れることをメーカー側が想定している」ということであるからだ。

当然だが電化製品はまず、壊れないほうが良いに決まっている。「壊れない」というのは、それだけで非常に重要な「サービス」なのだ。それはサポートや修理なんかよりも格段に上質な「サービス」なのである。もちろん壊れたときにしっかり修理対応してくれるのは非常にありがたいものだが、壊れなければそもそもそんな「サービス」など必要ない。よくサポート対応の良い企業が「神対応」などといってもて囃されるが、本当に優秀な企業であればそれ以前に購入者がわざわざサポートセンターになど連絡する必要のない製品、いわば滅多に壊れることのない「神製品」を製作販売しているはず。「神対応」よりも「神製品」のほうが遥かに尊いのである。

近年はどうも、壊れることを前提に、そして壊れたら次世代機に買い換えることを前提に製作販売されている製品が多すぎる。プリンタなど最たるもので、すぐ壊れるうえに、「修理に出すより買い換えたほうが良いのでは?」と悩ませる絶妙な修理代金が設定されていたりする。向こうも消費者心理を充分にわかっているから、サポートセンターの対応も、買い換えを遠まわしに勧めてくる節がある。そこからは、「我々は良い製品を作っている」という矜恃など微塵も感じられない。そしてメーカー側の思惑どおり買い換えてみたところで、製品の「壊れやすさ」は律儀にも次世代機へときっちり引き継がれていることが多い。

「サービス」にもいろいろな段階の「サービス」があって、初期段階の「サービス」をサボるとそれをフォローする新たな「サービス」が必要となる。壊れやすい製品はその後も繰り返し修理が必要となる可能性があるし、わかりにくい建物は客が来るたびに毎度案内をしなければならない。それらあと乗せの「フォロー型サービス」は延々と継続せねばならず、そこには終わりというものがない。やはり物事は「始めが肝心」という当たり前の着地点からは逃れようもないが、この先も永遠に続くであろうお役所の迷宮案内は、やがてロボットに引き継がれてゆくことになるのだろうか。だとしたら、そのロボットが壊れやすくないことを祈る。

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