泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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あなたのお名前の反対のお名前なんてぇの? 「はい、京せまおです」

言葉には、基本的に反対の意味を表す「反意語」というものが存在する。「熱い」に対する「冷たい」、「硬い」に対する「軟らかい」、「現実」に対する「理想」というように。ならば同じく言葉である以上、「名前」にも反意語があるのではないか。人や物の「名前」に対する「反意語」、それをここで仮に「反意名」と名づけよう。

なかなかに面倒かつ無益な作業だが、名前を単語レベルにまでいちいち解体し、逐語訳感覚でひとつずつ「反意語」を当てはめていけばなんとかなるはずだ。とりあえずやってみる。

●「郷ひろみ」←→「京せまお」
まずは名字から考えてみる。「郷」の反対は何か? いきなりもうわからない。仕方がないので、ひろみ以外で「郷」のつく言葉を思い浮かべてみる。そういえば田舎に帰ることを「帰郷」と言う。その反対は都会に出ること、つまり「上京」だろう。ということは、「郷」の反対は「京」ということになる。ゆえに名字は「京」とする。

次に名前。ひろみの「ひろ」を「広」として考えて、その反意語の「狭」を当ててみる。余った語尾の「み」は、女性名のラストを飾りがちな「美」と考え、性別的に反対という意味で、男性名の語尾に置かれがちな「雄/夫/男」=「お」をくっつけてみる。

というわけで、京都出身の地元密着型演歌歌手「京せまお」の完成である。
明らかに京唄子の弟子みたいだが、響きの完成度はなかなかである。アイドルは諦めたほうが良い。

●「小雪」←→「天晴れ」
「小」の反対は「大」、「雪」の反対は「晴」と捉え、「大晴」としたいところだが、せっかくなので「天晴れ」に。なにが「せっかく」なのかは不明だが、大沢親分R.I.P.

●「香川照之」←→「岡山陰来」
「香川」と言えば県名である。そして「川」といえば「山」。というわけで、「山」のつく県名を探してみる。候補は「山形」「山梨」「富山」「和歌山」「岡山」「山口」の六つ。その中で、「山」が二文字目に来る「富山」「岡山」を有力視。「香川」と「岡山」は位置的に瀬戸内海を挟んでちょうど向かい合っている。これを「対立」と捉え、名字は「岡山」とする。

名前の二文字は分割して考える。「照」の反対は、照らされていない場所、つまり「陰」あたりか。「之」は「ゆく」という意味があるようなので、反対の「来る」から「来」の字を採用。

岡山陰来――なんとなく剣豪っぽいような気もするが、名前は「かげき」と読む。声に出して読んでみると、志茂田景樹に急接近。息子はタクシードライバーだ。

●「うまい棒」←→「まずい粉」
商品名は人名よりも意味が明確なぶん、「反意名変換」がわりと楽かもしれない。

「うまい」の反対は「まずい」。「棒」の反対は微妙だが、形状が不安定な「粉」とか「液」あたりか。うまい棒を食べると必ず服が粉まみれになるので、そこのつながりを重視してここは「粉」のほうをチョイス。

特にひねりはないが、たぶん苦い粉薬のような味がするのだろう。ただし薬ではないのでただまずいだけの代物。

以上、「反意名」への理論的なアプローチ方法を考えてみた。基本的にはこのスタンスでいける(どこに?)はずだが、しかし何事にも理論を越えた例外はある。とにかく丸暗記するしかない慣用句のようなものが、どの言語にも存在しているからだ。言語レベルではなく、イメージレベルにおける「反意名」。特に意味などなく、使われているうちになんとなく定着したものなので、これはもう憶えるしかない。そのような代表例を最後にひとつ挙げ、この文章の締めくくりとしたい。

●「TUBE」←→「冬将軍

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