泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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最近聴読作品所感~穏やかに見えて先鋭~

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近ごろ読んだもの聴いたもの何かしらの引っかかりがあったもの。


【小説】

★『ある完璧な一日』/マルタン・パージュ

ある完璧な一日

ある完璧な一日

フランスの若手作家、と13年前のデビュー作に書かれていたから今は若手ではないのかもしれない。

この人の作品は、いつもジャケットとタイトルに惹かれて手にとってしまう。
『僕はどうやってバカになったか』『たぶん、愛の話』など。

リチャード・ブローティガン的なポップさと死のイメージ。
剣呑な自殺のイメージと平穏な現実をシームレスに描く手法は、効果的といえば効果的だが、それが面白いかというとそうでもない。
この人の作品はいつも寸止め感があって、面白そうな雰囲気を全体に漂わせながらも、どうも期待したところまでは行ってくれないもどかしさがある。

作品それ自体が狂気というよりは、狂気を衣服として適宜着脱するような巧みさを感じる。その巧みさが、フィルターとなって生々しいユーモアを濾過してしまうのかもしれない。


★『地鳴き、小鳥みたいな』/保坂和志

地鳴き、小鳥みたいな

地鳴き、小鳥みたいな

穏やかに見えて先鋭。それが保坂和志の本質だと思う。

「思考の流れ」という文学的手法があるが、ここで繰り広げられているものは、もはやそれどころではない。それ以前に「認識の順序」さえもが如実に伝わってくる文体。
普通ならば省かれるプロセスが省かれず、むしろさらに粘り強く考えることによって、そのプロセス自体が小説としての魅力を発散しはじめる。

以下のトーク動画でも、まさにそんな思考回路の手触りを感じることができる。
トークの面白さの本質というのもまた、巷間で有り難がられる安っぽいまとめ能力などではなく、粘り強い逡巡と迂回の道程。


★『古森の秘密』/ディーノ・ブッツァーティ

古森の秘密 (はじめて出逢う世界のおはなし)

古森の秘密 (はじめて出逢う世界のおはなし)

カフカの後継者と呼ばれる作家は多いが、その中で最も精度の高い作家のひとりがイタリアのブッツァーティだろう。
カフカは抜群に真似したくなる作家だが、一方で真似すると怪我をする確率も高い。

とはいえ本作は初期作品(長編第二作)ということもあり、後のカフカ的な作品群に比べて随分とベタにファンタジーしている。
森の精霊に代表されるように、いかにもなファンタジー的記号が多く用いられ、物語も起承転結が明確にある。全体にエンタメ寄りの作風。

ベタな要素が多いので読みやすいが、やはり後の『タタール人の砂漠』や名作短編群に比べると明快すぎて文学的な不穏さが足りない。
とはいえ、そこに至る作風の変化を感じ取れるという意味では興味深い作品。


【音楽】

★『SORCERESS』/OPETH

SORCERESS-DIGIPAK

SORCERESS-DIGIPAK

スウェーデンプログレッシヴ・メタルバンドの12作目。
デス・メタルからプログレへの変化/進化は珍しくはないが、まさかここまで来るとは。

その音像はとにかく耽美的。暗く、重く、ひたすらに美しい。
やはり美しさを手に入れるためには、暗さと重さが必須なのだと改めて思い知らされる。

近ごろはとにかくこればかり聴いている。
ジャンル関係なく、偏見なしにまっさらな気持ちで触れてみてほしい傑作。


★『BATTLES』/IN FLAMES

イン・フレイムス『バトルズ』【通常盤CD(日本盤限定ボーナストラック/歌詞対訳付き/日本語解説書封入)】

イン・フレイムス『バトルズ』【通常盤CD(日本盤限定ボーナストラック/歌詞対訳付き/日本語解説書封入)】

こちらもスウェーデン出身のメロディックデスメタルバンドの12作目。

ここ最近はすっかりアメリカナイズされ、元来の疾走感も哀愁も失いかけていた彼ら。
なのであまり期待はしていなかったが、これは久々に聴き込み甲斐のある一作になっている。

とはいえ、原点回帰した印象はない。
近作と方向性に基本的な変わりはなく、ただそのクオリティが劇的に向上している。

それはおそらく、プロデューサーにHOOBASTANKDAUGHTRYらの大ヒット作を手掛けたハワード・ベンソンを迎えた効果が大きいだろう。
精彩を欠いていたここ数作に比べ、無駄が削ぎ落とされ、メロディが丹念に磨かれている感触がたしかにある。

そういう意味で、かなりソリッドかつタイトな作品に仕上がっている。
だがそれは、初期の疾走感や激情を取り戻したという意味ではない。むしろ都会的洗練の度合いは進んでいる。

その洗練を良しとするかどうか。
個人的には、メロディの質の高さゆえ気に入っている。

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