泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

短篇小説「RP爺」

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ヒント爺は、今日もRPGの世界を旅する勇者たちに情報を与えるためだけに生きている。

この世界はすっかり荒廃してしまった。しかしそれがなぜなのかは、ヒント爺風情にはわからない。彼に与えられている情報は、あまりにも少ないからだ。

いまヒント爺の住んでいる村では、昨年から水不足が続いている。もう一年あまりも雨が降っていないのである。そんな村に旅人が来ることはもはや滅多にないのだが、昨日は珍しく剣と盾を持った典型的な勇者が訪れた。盾が皮製だったところを見ると、まださほど冒険は進んでいないようだ。

勇者はずかずかと村に入ると、目についた村人に片っ端から話しかけていた。まるでナンパ師のように見境がないが、情報に飢えているのだから大目に見てやろう。村の名称や近隣の地形など、基本的なことは人に訊ねる前に「ググれカス!」と撥ねのけたくなる気持ちはやまやまだが、彼らはデジタルな世界の中に生きているにもかかわらず、ネットには随分と疎いらしい。

勇者という生き物は、どうやら「人に訊く」以外に物を調べる手段を知らない。そしてどういうわけか、挨拶のできない奴が多い。それどころか、いきなり無言で民家に入り込んできて、無断で壺を破砕したりクローゼットをおっぴろげて中の物を持ち出したりもする。そうやって手に入れた盗品を、道具屋に持ち込んで換金までするというから呆れた勇気だ。

昨日出会った勇者も、挨拶なしにいきなり話しかけてきた。しかしヒント爺は特に驚きもせずに言った。

「東の川を渡った先に、火山があってな。あれが噴火してから、この村にはすっかり雨が降らなくなっちまって」

勇者は足踏みをしながら聴いている。思いのほか食いつきがイマイチなので、ヒント爺はもうひと押しすることにした。

「村の若い衆が何人も様子を見に行ったんじゃが、誰ひとり帰って来んのじゃよ…」

しかしこの男、どうも相当にレベルの低い勇者のようで、そこまで言ってやってもまだボーッと話の続きを待っている。これが噂に聞くゆとり世代のゆとり勇者であろうか。仕方がないので、ヒント爺は最後にダメ押しの台詞をつけ加えてやることにする。

「悪いことは言わん。あそこには絶対に近づかんほうがええ」

これで火山に向かわない勇者などいるはずがない。ヒント爺の基本スタンスは、いわゆる「上島竜兵作戦」である。「押すなよ、押すなよ」と言ったら、人は必ず押す。

だからもちろん、「火山に近づくな」という警告は、「今すぐ火山へ行け」という意味に他ならない。そこへ行かないことには、クリアできないことになっているのである。

しかしこの勇者、そこまで親切に情報を振ってやったにもかかわらず、先ほどから村の入口付近をうろついているフリルの美女にばかり何度も話しかけている。あれは村の外から派遣されてきたコンパニオンであり、「ようこそ、マンダラベリー村へ」とこの村の名前を無闇に知らせることしか能のない女である。

なんと助平な勇者であろうか。そしてなんとゲーム勘の悪い勇者であろうか。ヒント爺はもう一度同じ情報を奴にくれてやろうかと思ったが、この世界ではこちらから勇者に話しかけることは固く禁じられている。

ヒント爺は勇者が話しかけやすいように、それとなく勇者に近づいてみた。しかし体が触れるほど接近してみても、勇者はいっこうに話しかけてくる様子がないのである。これではヒント爺、もはや手の打ちようがない。

やがて勇者は、明らかにHP満タン状態であるのに宿屋へと吸い込まれていった。ヒント爺は持ち場が屋外であるため、建物内に入ることはできない。無念である。

翌朝、宿屋の出口でいま一度同じヒントを再放送してやろうと待ち構えていたヒント爺には脇目も振らず、勇者はそそくさと村の外へ旅立っていった。ヒント爺は途方に暮れた。その日の夕方、村に一年ぶりの雨が降った。

「あやつ……」

ヒント爺は、自分の仕事を誇りに思っている。


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