ある冬の夜、少女が路上でマッチを売っていた。少女がマッチを売っていたのは、マッチを買うおじさんがいるからであった。好きで売っているわけではない。
マッチを買うおじさんもまた、マッチが好きなわけでも必要なわけでもなかった、マッチを買うおばさんがいるからマッチを買っていたのである。つまりおじさんもまた、少女から買ったマッチを別の路上でおばさんに売っていた。
マッチを買うおばさんがマッチをどうしても欲しいかというと、そんなことはない。家にはガスコンロもライターもチャッカマンもある。おばさんはただ、マッチを買ってくれる少女に売るためにのみ、マッチを買っていたのである。
このマッチを買ってくれる少女というのは、路上でおじさんにマッチを売っている例の少女だった。少女はおばさんに問うた。
「なんか最近高くないですか、マッチ」
おばさんは答えた。
「仕入れ値が高いのよ」
現代資本主義は需要と供給の関係で成り立っている。こうしてマッチの市場価格は値上がりを続けていった。まさにWin-Winの関係と言うほかない。