◆歴史大作がそれぞれの角度から描き出す、三者三様、真田三代の物語
人や作品には必ずルーツがあり、ルーツを知ることでその人や作品をより深く、多角的に味わうことができる。――そんなことは言われなくてもわかってる、とは誰もが思いながらも、なかなか実際にそこまでは掘り下げないのが世の常で。とは言いつつも。
ここではNHK大河ドラマ『真田丸』を、そしてそこだけには収まりきらない真田家と戦国ドラマの魅力をさらに増幅させてくれる、過去の名品2作をご紹介したい。
『真田丸』本編はこのたび一瞬で関ヶ原を終え、いよいよ悲劇性を帯びつつ終盤戦へと突入していく。この作品の前半戦を支えたのは、間違いなく草刈正雄演じる真田昌幸であったと思う。終始飄々とした軽さを身にまといながら、時に身内をも騙す奇策を駆使して、田舎の弱小大名である真田家を存続させてきた男。
天下の秀吉をして「表裏比興の者」と言わしめたそのつかみどころのないキャラクターを、硬軟自在、縦横無尽に演じてきた草刈正雄。1本目に紹介するのは、そんな彼が30年前に真田幸村(=信繁。『真田丸』では堺雅人が演じている)役を演じていた作品『真田太平記』である。
◆草刈正雄が幸村を演じ、丹波哲郎演じる父・昌幸の背中を見つめた『真田太平記』
『真田太平記』は水曜20時の「NHK新大型時代劇」という枠で1985年から86年にかけて放送されたドラマで、原作は池波正太郎の小説。全45話と、通常の大河ドラマよりは5話ほど少ないが、内容の充実度においては、大河ドラマ勢の中に入れても確実に上位に入る。
時代のせいか、大河に比べ予算が少なかったせいか、映像的には安易な合成処理なども見られ、どうしても安っぽい部分はある。しかし戦闘シーンにおいて、説明を最小限にとどめつつ、刻々と動き続ける戦況を映像の力でリアルに伝える演出は素晴らしい。
そしてこの『真田太平記』で真田昌幸を演じているのは、あの「死んだら驚いた」というキャッチフレーズでお馴染みの大霊界俳優・丹波哲郎。草刈正雄はその次男役である幸村を演じているのだが、このときに丹波哲郎が演じた豪放磊落な昌幸の人物像が強く頭の中に残っていると、彼は公式HPのインタビューで語っている。
http://www.nhk.or.jp/sanadamaru/special/interview/interview11.html#mainContentswww.nhk.or.jp
この『真田太平記』から30年後に、幸村を演じていた草刈正雄が、今度はその父親の昌幸を演じるというこの因果。実に粋な配役である。ちなみに「思案中に手の中で胡桃を転がす」という演技は、丹波版昌幸から草刈版昌幸が受け継いだものだ。
ともに物語のスタート地点を「武田家の滅亡」に置いたこの2作。しかし昌幸と長男・信幸、次男・信繁(幸村)という主要3人のキャラクター像は、実のところかなり異なっている。
『真田丸』においては、次男・信繁が「知略の人」である父・昌幸の器を超える予感を徐々に漂わせはじめている。一方で『真田太平記』のほうでは、むしろ大人しく見える長男の信幸(渡瀬恒彦)こそが、昌幸も恐れるほどの器量を備えた人物として重々しく描かれる。
この違いは大きいが、それはおそらく3人が自らの選択肢をどこまで意図して選び取ったか、そして誰がもっとも真田家に貢献したか(後世の知名度か、あるいはお家の存続か)という解釈の違いによって生じるものだろう。両者を見比べることで、3人のキャラクターは受け手の中で、より立体的な像を結ぶ。
◆重厚長大な作品の中で、真田家の原点とも言うべき幸隆(昌幸の父)役を務める橋爪功の飄々とした演技が光る『武田信玄』
そして2本目に紹介するのは、最高視聴率49.2%、平均視聴率39.2%という、今さら紹介するのも憚られるほどのレジェンド的存在である大河ドラマ『武田信玄』である。
これだけの数字を持った作品をわざわざ紹介するなど、まるで「実は『紅白歌合戦』っていう年末の凄い歌番組があってね…」と言っているような気恥ずかしさを覚えるので、こちらは短めに触れる。
この作品が描いているのは、『真田丸』や『真田太平記』よりひと世代前の時代であり、ここには武田家の家臣として、真田昌幸の父であり、真田家の礎を築いたとされる真田幸隆が登場する。
となると『真田丸』に近いような遠いような、微妙な印象を受けるかもしれないが、この真田幸隆を演じる橋爪功の演技には間違いなく『真田丸』における草刈版昌幸にも通じる飄々とした魅力が溢れている。ここにも『真田丸』の、そして草刈正雄演じる昌幸というキャラクターのルーツを、たしかに感じることができるのである。
この『武田信玄』という作品は、「父の追放」という重苦しいテーマを背負った地点からのスタートということもあって、とにかく全編、重厚感に溢れている。これだけ暗く重いトーンの物語が爆発的視聴率を叩き出したという現象は、連続テレビ小説『おしん』にも通じるものを感じる。
そんな中にあってほとんどただひとり、軽やかな言動で異彩を放っているのが、橋爪功演じる真田幸隆なのである。
そしてその幸隆の放つ稀有な軽快さによって、なぜ真田家が猛者揃いの武田家の中で重用されるようになったのかということが、少しずつ見えてくる。さらには真田という弱小勢力が、武田家という大所帯の中で、そして群雄割拠の戦国時代の中で、いかにして独自のポジションを築くに至ったのか、その理由が身にしみて感じられてくるのである。
こちらは現在NHKのBSプレミアムで再放送中。できれば1話目から観てほしいが、この「圧倒的な重さ」はあらゆる物語作品における最高傑作のひとつとして、一度味わっておく価値がある。