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「部屋とYシャツと私」を超える最強のトライアングルを考えてみる

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タイトルが秀逸な曲といば、真っ先に挙がるのが平松愛理の名曲「部屋とYシャツと私」。このタイトルが何を意味するのか、そんな中身の話は置いといて。

「なんとなく世界観が感じられて、響きが良い」。曲名というのはもしかすると、それだけで充分なんじゃないか。そしてこの曲名のように、何かしら「三つの言葉」を並べさえすれば、安易に何らかの世界観を提示することができるのではないか。

というわけで、音楽の最も手前にある浅瀬の部分…よりもさらに手前の砂浜に埋められている人、くらいの気分で(気分が不明)、「部屋とYシャツと私」のようなトライアングルを考えてみたい。

まずは曲名である以上、万人の共感を呼ぶのが理想だ。ならば「共感」だけにフォーカスして、こんな三者を召喚してみる。

「桜と大丈夫とありがとう」

完全に共感狙いの、J-POP頻出フレーズを単に三つ並べてみた。企画書的には300万枚の売り上げは堅いが、実際には路上ミュージシャンで終わるだろう。それぞれのワードが普遍的すぎて、これではまったく世界観が立ち上がらないのである。

「世界観」というやつは、どうやらその「とんでもない広さ」をイメージさせる「世界」という言葉に反して、「ある程度範囲を限定したところ」にしか醸成されないらしい。それは「箱庭感」と言い替えたほうがいいものなのかもしれない。

ではもうひとまわり、世界を狭めてみる。

「昇降口と掃除ロッカーと百葉箱」

言うまでもなく設定は「学校」である。基本的に学校でしか見かけることのないもの、もしくは学校でしかそういう呼ばれかたをされないもの三選。

昇降口で出逢って、掃除ロッカーで恋に落ちて、百葉箱でキスをする…。これはきっと、そんな学園ラブソングに違いない。モップのように痩せているか、エスパー伊東のような折りたたみ式の肉体構造を持った二人の恋物語。全然共感できないではないか。

しかし「その世界でしか見られないもの」を三つ並べることで、受け手に限定された世界観を思い描かせるという手法は使える。ならばその方法で、世界観を二次元に落とし込んでみる。

「変電所と桑畑と三角点」

二次元というのは漫画やアニメという意味ではなく、文字通りの「二次元=平面」、つまりこの世界を平面化してみせた「地図」という意味である。この三つは多くの人にとって、「地図記号でしか認識したことがない場所」なのではないだろうか。

変電所マニアはまだいそうだし、桑畑はわざわざ桑を記号として独立させる必要を今どき感じないが存在はわかる。しかしそれどころではない「三角点」の意味のわからなさはどうだ。

とはいえいずれも、わざわざカーナビで目的地指定してまで行くような場所ではない、という点においては共通している。つまり「認識外である」という意味でこれらは、その人にとって「地図上にしか存在しない場所」なのである。

そう考えてみると、突如としてファンタジックな世界観が立ち上がりはしないだろうか。変電所で出逢い、桑畑で恋に落ち、三角点でキスをする。尾崎豊の「十七歳の地図」とか、たぶんそういう歌だろう。

しかしこの場合、「登場する三つのワード間のつながりが弱い」という部分に、まだまだ不満が残る。地図記号であるという共通点はあるものの、「変電所」と「桑畑」と「三角点」の間に、直接のつながりは感じられない。

できれば題名に登場する三つの単語の間には、強い絆を求めたい。そうなってくると、こういう案がどこからともなく浮上してくる。

「志乃とねじねじと彬」

志乃と彬が、ねじねじによってタイトに結ばれている――これは完璧なラブソングの予感がする。言葉のリズム的にも、ほぼ「部屋とYシャツと私」と同じである。しかもYシャツとねじねじは位置的に非常に近いというか、同じようなものだと言ってしまいたい(全然違う)。

だがそこまで来ると今度は、少し本家の「部屋とYシャツと私」に世界観が似すぎているのが気になってくる(全然似ていない)。志乃が彬に《毒入りスープで一緒にいこう》と歌っても、あまり違和感がないような気もする。

それにこのコラムのタイトルはあくまでも、「最強のトライアングルを考えてみる」だったことをいま急に思い出した。なぜそんなタイトルにしたのか。そうなると武器がねじねじでは、まったく勝てる気がしない。志乃の戦闘力も、あまり期待はできないだろう。

最終的に「強さ」という観点も盛り込むとなると、もうこれしかないかもしれない。後半二つの単語は一人の名前がまっぷたつに分断されているため、実質的には全部で二語だが、そのぶん絆が強いと考えれば良い。

「八名と丹古母と鬼馬二」

泣く子も黙る悪役商会である。「八名」はもちろん「はちめい」ではなく「やな」。「はちめい」でも、それはそれで人数的に強いが。

難点は、異様に判読困難であるということだけだ。血の臭いしかしない。

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