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悪戯短篇小説「出かけない三郎」

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三郎はとにかく出かけない。一郎と二郎はむしろ頻繁に出かけるほうだが三郎はわざわざ出かけたりしない。

晴れの日も出かけないが雨の日はさらに出かけない。雪の日に出かけるのは、特に雪が好きだからではなく、三郎が「俺は晴れの日も、雨の日も、曇りの日も、風の日も出かけたりしない」と小学校(通信制)の卒業文集に宣言してしまったからだ。雪の日を書き忘れた。

もちろん雹の日も、滅多にないが書き忘れた以上出かけなくてはならない。台風の日は雨か風のどちらかが必ず含まれるため出かけなくて良い。

雨が夜ふけ過ぎに雪へと変わったら、三郎はすぐに出かけなければならない。みぞれだろうとあられだろうと、卒業文集に書いていないのだから出かけなければならないことに変わりはない。

三郎は雪がすごく好きな人だと思われている。少なくとも母親はそう考えている。朝食に雪見だいふくが出てきたときにそれを確信した。三郎はとにかく出かけないだけで引きこもりではないので、天候にかかわらず家の中を自由に歩き回ることができるし家族と食事もする。そして雪の日には出かける。特に心を閉ざしている様子もない。

窓の外に粉雪がちらつき始めた。その雪は窓の対角線を斜めに切り取っている。つまり横なぐりの雪であり、それは風が強いことを意味する。今日はいったい雪の日なのか、風の日なのか? 雪よりも風のほうが強いと判断されれば、雪の日ではなく風の日と認定されるため出かけなくて良いのだが。三郎は人生の正念場に立たされている。

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