メタル・ファンからは「軟弱だ」と謗られ、パンク・ファンからは「遅すぎる」とナメられ、ポップス・ファンからは「うるさすぎる」と敬遠される。そんな名曲たちが、洋楽には実のところ数多く存在している。
普通に考えれば、その三つの中間にあるのがちょうど「ロック」というものであるような気もするが、なぜか日本において単に「ロック」と言った場合、それはいわゆる「UKロック」を中心に、案外狭い領域の音楽を指しているように思う。お洒落でスタイリッシュなもの以外は、他ジャンルへと弾き出される印象がある。
そうやって居場所をなくしたものたちを指すために「オルタナティヴ・ロック」(通称「オルタナ」)という呼称が用いられることもあるが、その言葉には本来、ポピュラーなメインストリームの音楽を否定するような、どこかアンダーグラウンドな感触がある。
そういった意味で、日本では「オルタナ」という言葉が便利に使われすぎている。グランジが隆盛を極めた90年代以降、北米でメインストリームとなった「ロック」のほとんどは、日本では大雑把に「オルタナ」と呼ばれ、どこの枠にも入れてもらえないまま、常に過小評価されてきた。その中には日本人好みの良質なメロディをはじめ、キャッチーな要素を多く備えているにもかかわらず、ジャンルの狭間に埋もれてきた名曲たち。
それらの中から、ミュージック・ヴィデオが制作/公開されている10曲を厳選してみた。
◆「False Pretence」/THE RED JUMPSUIT APPARATUS
甘酸っぱいメロディと疾走感。「メロコア」ほどパンキッシュでもなく、「ヘヴィ・ロック」ほど重苦しくもなく。絶妙な塩梅。
◆「Spin」/LIFEHOUSE
グランジの気だるさを引き継ぎつつも、中心にあるのは普遍的で芯の強いメロディ。
◆「Wherever You Will Go」/THE CALLING
端正な外見に似合わぬ低音美声を最大限生かした歌メロと、その圧倒的哀感。
◆「It's Over Now」/NEVE
「ロック」と呼ぶにはたしかに甘すぎるかもしれない。しかしこの「甘さ」には抗い難い魅力がある。
◆「Real World」/MATCHBOX TWENTY
独特の声質と節回しで全米を捉えたメロディ。ギター・リフと歌メロの絡みにも独特な味がある。
◆「Iris」/GOO GOO DOLLS
溌剌とした楽曲も多いこのバンドの作曲能力を浮き彫りにする名バラード。最初はメロディ展開の少なさを物足りなく感じるかもしれないが、聴き込むにつれミニマムな旋律の美しさが沁みてくる。
◆「Breakdown」/TANTRIC
印象的なギター・フレーズにとんでもなく渋い歌声。とにかく全体に「貫禄」が凄まじい。ドラムの髪型(謎のツインテール)も見どころ。
◆「Little Too Late」/DEFAULT
同郷の大スター、NICKELBACKを追いかけるような音楽性(実際、デビュー作にはNICKELBACKのチャドがプロデュースで関与)だが、こちらのほうがより繊細な印象。時にメロディの質は本家を越える。
◆「Right Now」/SR-71
軽快なリフから弾けるようなメロディ展開。誰の耳にも印象に残るであろう普遍的なキャッチーさに溢れている。
◆「Already Over」/RED
明らかにポストLINKIN PARKでありつつ、より歌メロにフォーカスした実力派。腰の据わった演奏の上に乗る、絶望的に美しい旋律。