泣きながら一気に書きました

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悪戯短篇小説「桃太郎謝罪会見」

まさか鬼のツノからきびだんごが出てくるとは。

桃太郎はだだっ広い『ホテルニュー鬼ヶ島』の謝罪会見場で大量のフラッシュを一身に浴びながら、鬼の知能を高く見積もりすぎていたことを激しく後悔していた。あれがそこから出てくるのは必然であることに今さら気がついたのである。まさかでもなんでもない。

ちなみに『ホテルニュー鬼ヶ島』というのは、オーナーの元ヤンキー夫妻が「鬼ヶ島」という響きのいかつさに憧れてそう名づけただけであり、特に鬼ヶ島にあるわけでも鬼が経営にタッチしているわけでもない、本土にあるそこそこのホテルである。例によって、「ニュー」でない『ホテル鬼ヶ島』という名のホテルは存在しない。

鬼の好物がきびだんごであったのは、桃太郎にとってまったくの計算外だった。出立時にお婆さんから渡されたのは、そもそも桃太郎が食べる用のきびだんごであった。それは特にお婆さんの得意料理というわけではなく、クックパッドで見つけたレシピに適当なアレンジを加えることで、初めて完成させた意欲作だった。それを犬猿キジに渡したらホイホイとついてきたので「これは!」と思い、お婆さんに追加発注したのがそもそもの間違いだった。

やはり鬼もしょせんは動物だったというわけだ。桃太郎を生んだあの巨大な桃フレームの中へ、お婆さんがたっぷりの愛情とともに詰め込み川に流して届けてくれた追加分のきびだんごを、遠征先の鬼ヶ島でスムーズにピックアップした桃太郎。そのきびだんごを手渡すと、鬼たちは驚くほど素直にやられ役を引き受けてくれたのであった。つまり鬼を倒したのは、実質的にはお婆さんだということになる。

余談だが「来年のことを言えば鬼が笑う」というのも完全に「やらせ」であり、いくら来年の話をしても美味しい食べ物をあげなければ鬼は笑ってはくれない。所属事務所が大きいので仕方ない。

やられ役へのギャランティーとして前払いしたきびだんごを、鬼らはとりあえずツノの内へと隠匿。その後、リアルな形相で絶妙な敗戦っぷりを見せたのは、マスコミ各社による既報の通りである。そもそも鬼のツノが取りはずし可能であったことが桃太郎には驚きであったが、取りはずしたツノの中はすっかり空洞になっており、そこには飴もガムもアクセサリーも一緒くたに収納されているようだった。はずすときと嵌めるときに鳴る「カチッ」という音が、いまも桃太郎の耳に残っている。

だが一旦しまったものは、必ず取り出される日が来る。そこへの配慮が足りなかったことを、桃太郎は一生悔いることになった。

戦後まもなく鬼ヶ島の路上にて、はずしたツノをコーンに見立て、その上にきびだんごをカプリコのようにのせて楽しそうにパクついている複数の鬼の姿が、写真週刊誌に激写されたのである。

それが明らかに空撮であることから、写真を撮って週刊誌に売ったのはキジだと桃太郎は睨んでおり、犬や猿に比べて体が小さいという理由で、キジには小さめのきびだんごしかあげなかったことを、今さらながら後悔している。小さな奴ほど、不平等には敏感なものだ。

会見終了後、会場に集まった記者全員に美味しいきびだんごが配られたという。しかしそれらは、首都圏からやってきた記者たちの都会的な味覚にはさっぱり合わなかったようで、記者たちの口からは、「こんなものに鬼が食いつくとは考えにくい」「むしろあらかじめ鬼にアジャストされた味つけなのでは?」「主犯はお婆さん」といった心ない憶測が飛び交った。

桃太郎は誰もいなくなってから、会見場に打ち捨てられたきびだんごをひとつ、初めて頬張ってみた。お供の動物らと鬼一味にすべて配り尽くしてしまい、桃太郎はいまだお婆さんの特製きびだんごを口にしたことがなかったのである。桃太郎にとってお婆さんのきびだんごは、ものすごく美味しかった。噂でしか聴いたことのない自らの不自然極まりない誕生シーンを思い描きながら、自分も人間ではないのかもしれないと思った。

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