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泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

悪戯短篇小説「隣は何をする人ぞ」

短篇小説

学校の門前に文具屋があり、競馬場の向かいに消費者金融があり、飲食店にトイレがある。世のなか合理的にできている。

男が倒れたのは美容院の前だった。男の頭髪は燃えていた。パーマネントに失敗したのだ。失敗の方法は色々ある。

男はとりあえず、美容院の隣の店に駆け込んだ。そこは煙草屋だった。煙草屋には入口がなかったのでカウンターの窓に頭を突っ込んだ。店内すべての煙草に火がついた。火災と言っていい。

幸いなことに煙草屋の隣は消防署だった。火は店内の煙草を満喫した末に消し止められた。その副流煙が周辺住民をニコチン中毒にし、やがて再建した煙草屋の売り上げは火災前よりも遙かにのびた。消防士もパーマネントの男も喫煙者になった。

しかし男の頭髪の火はまだ消えていなかった。消防士が到着する前に煙草屋を去り、消防署の前を通過していたからである。

男は危ないところだった。消防署の隣にはガソリンスタンドがあったからだ。しかし男は燃えたまま、難なくその前を通り過ぎることができた。非常に優秀なガソリンスタンドだと言える。

ガソリンスタンドの隣には寂れた魚屋があった。男が足を踏み入れると、魚屋の魚はすべて熱帯魚になった。やがてその魚屋は熱帯魚屋になり、富裕層の客を捕まえることに成功した。そして店主のダミ声が治った。

男はその隣にある薬局に入った。「火傷の薬をくれ」と言うと、薬剤師は「まだ消えてないから駄目ですよ」と言った。仕方がないので『冷えピタ』を買った。「だから消えてないから駄目ですよ」と言われながら。

その隣には民家があり、小窓から黙々と煙が出ていた。いまだ燃え続けている男の頭は、同じ煙を出す場所に引き寄せられるように、小窓へと近づいていった。煙の彼方へと細めたその目が物体のシルエットをぼんやり捉えた刹那、「のび太さんのエッチ−!」という叫び声とともに、小窓の向こうから大量のお湯が襲来した。男の頭はようやく鎮火された。

やっと来るべき場所に来たという印象がある。

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