泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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悪戯短篇小説「新語流行語全部入り小説2013」

富士山の八合目に美文字レベルの大の字をクッキリと浮かび上がらせるPM2・5の靄を突き抜けるように、困り顔メイク兼涙袋メイクで読モを気取ったNSC出身のこじらせ女子と、あまロスに悩むさとり世代の日傘男子が弾丸登山を試みた。

これは実のところ、「頂上に突き刺さっている3本の矢をフライングゲットした方がブラック企業の限定正社員になれる」という厳しすぎる就職試験の一貫であったが、一歩でも「引いたら負け」というような厳しい価値観の理解できぬさとり世代の男女に、そんなスポーツの底力を感じさせるような根性論が通用するはずもない。二人は五合目で仲良く折り返し、就職は諦め母さん助けて詐欺を働いて楽に儲けようという話になった。

しかしそんな特定秘密を共有した二人の帰路を阻むべく、絶妙にぽっちゃりした強敵が現れた。ご当地キャラのDJポリスである。白バイで颯爽と登場したDJポリスはご当地電力を使用したマイクを通じて、二人に汚染水のようなヘイトスピーチを浴びせかけた。ポリスの胸元には、「シライ」とその名が刺繍されている。制服のブランド名かもしれない。やがてポリスはマイクをもうひとつ持ち出し、無意味な二刀流で二人を激しく責め立てた。

「お前たちは、すでにこの俺にコントロールされているッ!」

ポリスの背後に広がる空にはななつ星パズドラのように浮かんでいた。

ヘイトスピーチを浴びた困り顔メイクのこじらせ女子は激おこぷんぷん丸になったが、その横で日傘男子は自身のバカッターに上げるべくスマホでポリスの写真を撮りまくっていた。

「何やってんのよ! あんたもナチスの手口に学んだら?」

警官=ナチスだと思っているこじらせ女子は、ハダカの美奈子がビッグダディを怒鳴りつけるような口調で日傘男子を罵った。

「あんたも男なら、じぇじぇじぇ……ジェントルマンになってみなさいよ!」

こじらせ女子が照れながら放ったひとことに、「自分はちゃんと男として見られていたんだ」とにわかに気づき奮起した日傘男子は、「今でしょ!」と自身を鼓舞するように叫ぶと、DJポリスの乗ってきたお気に入りのマイナンバー付き白バイを、持っていた日傘で激しくつつき始めた。

「おいやめろ。そんなことしたら、俺の趣味であるダークツーリズムができなくなるじゃないか!」

日傘男子はスマホで写真を撮るふりをしつつ、DJポリスがうっとりとした目で白バイをしきりにチラ見しているのをしっかりと観察し、そこに弱点があると見極めていたのだ。

「見たかポリス、これが日傘男子の倍返しだ!」

DJポリスはほうほうのていで退散し、二人は恋に落ちた。

無事下山した二人は同棲を始めた。二人の愛の巣は入居者が次々出ていくワケあり物件で、近隣からは「追い出し部屋」と呼ばれていたが、DJポリスを倒した二人にもはや怖いものはなかった。そこで二人は予定通り母さん助けて詐欺を試みることにした。手元にはビッグデータをまとめた名簿(ハローページ)がある。まずは日傘男子が電話をかけることになった。

「もしもし母さん? 助けて! いま僕、ダイオウイカに襲われてるんだ!」
「ああそうかい。ウチの息子なら、今ふなっしーの中にいるよ」

完敗である。すでに答えは用意されていたようだった。二人は母さん助けて詐欺を諦め、NISA(ニーサ)ん助けて詐欺へと照準を切り替えた。しかしそれはもっと上手くいかなかった。兄はどいつもこいつも用心深かった。七人兄弟に集団的自衛権を主張され、命の危険すら感じた。二人は別れた。彼らは所詮、阿呆のMIXつまりアホノミクスでしかなかった。

NSC出身のこじらせ女子は芸人になる夢を捨て切れず人力舎スクールJCAに入学し、日傘男子は新潟の実家に帰ることにした。日傘男子が家に着くと、母は姉と連れ立って、中国から来日中のアイドルグループSNEP(スネップ)のコンサートに行っていて留守だった。父が出迎えてくれた。

久々に父と酒を酌み交わしていると、父の口から「アベノミクス」という言葉がやたら飛び出してくるので怪しいと思ったら、「実は次の市議会議員選挙に立候補しようと思っている」と言い出した。「俺はTwitterをやってるからネット選挙には強い」と豪語しているが、フォロワー数を訊いたら十二人だった。

父が「いいものを見せてやる」と言って筒状に丸めたものを持ち出してきた。広げて見せたそれには、ガッツポーズを決めた父の顔写真の横に、「お・も・て・な・し」の文字が。

日傘男子はおもむろに立ち上がると、玄関に日傘を取りに行った。


※本文中には、新語・流行語の意図的な誤用が含まれております。各自正しい意味をお調べになることをお勧めします。
※この小説は、以下の候補語五十個すべてを本文中に使用するという、きわめて不純な目的のみで書かれたフィクションです。

【<新語・流行語大賞>「今でしょ」「じぇじぇじぇ」「倍返し」など50語がノミネート】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131120-00000006-mantan-ent

新語・流行語大賞候補語一覧》
PM2・5/NISA(ニーサ)/母さん助けて詐欺/弾丸登山/美文字/DJポリス/ななつ星/パズドラ/ビッグデータ/SNEP(スネップ)/ヘイトスピーチ/さとり世代/ダークツーリズム/ご当地電力/ご当地キャラ/こじらせ女子/富士山/日傘男子/バカッター/激おこぷんぷん丸/困り顔メイク/涙袋メイク/倍返し/今でしょ/ダイオウイカ/じぇじぇじぇ/あまロス/ビッグダディ/ハダカの美奈子/ふなっしー/フライングゲット/マイナンバー/NSC/アベノミクス/3本の矢/集団的自衛権/特定秘密/汚染水/ブラック企業/限定正社員/追い出し部屋/ナチスの手口に学んだら/ネット選挙/アホノミクス/引いたら負け/二刀流/スポーツの底力/シライ/お・も・て・な・し/コントロールされている

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