泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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リニューアル渋谷駅の乱

新しくなった渋谷駅がカオスと化している。顔酢。みな酢を飲まされたような顔でさまよい歩いている。「だからお母さんきのうお酢買ってきたって言ったでしょ」「紛らわしいの買ってくんなよ。りんごジュースに見えんだよ!」誰もがそんな顔をして歩いている。

案内係に詰め寄るおっさんがいる。iPadの言うとおり歩いて柱にぶつかりそうになる女がいる。そもそも案内係の人数が多すぎる。むしろ案内係に訊くほうが自然な行為で、それを無視して歩いているほうが強がって見えるほど。これほど案内係を置くということは、わかりにくい構造であることを作り手側が十二分に自覚しているということで、つまりは失敗を自ら認めているように見える。

とにかく縦横無尽に迂回させられるのだが、なぜかヒカリエにだけはシンプルに出られる謎の構造。これは明らかに、ヒカリエへの誘導を狙っているようにしか見えない。ヒカリエも東急のものだから、東急線がそちらへ乗客を誘導したがるのは当然のことだが、結果として東急百貨店にはもの凄く行きにくくなっている。すでに百貨店のほうは認知されているから、それでも来てくれるだろうと判断したのか、あるいは百貨店を切り捨てヒカリエ重視でいくという意思表示なのか。

関係なさそうで関係あるのだが吉祥寺の喫茶店へ入ると、なぜか店内はご老人で溢れかえっており、もっぱらひとりの爺さんを中心に話題が展開していた。何をそんなに注目することがあるのかと思えば、爺さんはついさっき通った新しい渋谷駅の構造をひたすらディスっているのだった。

そこでは「不便」「遠い」「わかりにくい」という言葉が連呼され、誰もがそれに聴き耳を立て無闇に深く頷いていた。ヒートアップする爺さんの語り口は、まるで黒船を見てきた人のようである。そこで軽はずみに「ペリー」と口走ったり「ペリエ」を飲んだり「ペリッ」と音を立てて本をめくったりしたら、僕は爺さんの一刀のもと真っ二つにされていたかもしれない。たまたま帽子をかぶっていたおかげでざんぎり頭がバレず助かったようなものの。

どうやら倒幕も近いようだ。日本の夜明けぜよ。不便で遠まわりでわかりにくい夜明けぜよ。

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