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不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『THE MANZAI 2011』感想

フジテレビらしい演出過多により、『M-1』の魅力であったストイックさが完全に失われてしまった。

そもそも事前番組をダラダラと毎日のように放送し続けたり、特に面白味のない抽選会まで長々と放送したりと、漫才自体よりも全体の「お祭り感」を優先している空気は事前にひしひしと伝わってきていたが、さすがにここまで緊張感のない大会になるとは思わなかった。

番組作りのスタンスにおいて、まず決定的に、「主役は漫才」という意識に欠けている。冒頭40分間に渡りさんざん煽るだけ煽ってじらした挙げ句、司会の高島彩が「それでは早速参りましょう!」と言い放ったのにはさすがに驚愕した。そのくせその後は「時間がない」と言ってナイナイが進行にあせりを見せたり、審査員のコメントを極力省くなど重要なところをばっさりカット。一方で最終決戦前には、余裕でファイナリスト4組の1本目をそれぞれ丸々再放送するという謎の大盤振る舞い。4時間10分という長すぎる放送時間を終始扱いかねて迷走し続ける番組構成だった。

改めて『M-1』という大会が、シンプルに見えて実は良くできたシステムだったのだと気づくと同時に、すべては紳助の不在が原因なんじゃないかと思えてしまうのは、この『THE MANZAI』という大会(というより「番組」)が中心を決定的に欠いているように映ったからかもしれない。『M-1』はおそらく過去すべての漫才大会への解答として作られた大会だと思うのだが、この『THE MANZAI』という大会は、大きくなりすぎた『M-1』のみを比較対象として意識し、とにかく「『M-1』との違いをどうすれば生み出せるか」という対抗意識のみで作られた大会なのではないか。その近視眼的なコンセプトの結果として、本来中心に来るべき漫才へのリスペクトが失われてしまっているように感じた。「面白い漫才をどう見せるか」ではなく、「お祭り番組をどう作るか」というシフトチェンジ。それはいかにも古き良きフジテレビ的バラエティではあるけれど、今やバラエティの中心地はフジテレビではないということを同時に感じさせる。

と、番組としてのスタンスには多くの疑問を感じたというか、ほぼ疑問しか感じなかったのだが、肝心の漫才の内容に関しては、ちゃんとレベルの高いものも少なからずあって意外と悪くなかったように思う。さすがに本数が多すぎて玉石混淆の感は否めないが、特に『M-1』残党勢がさらなる成長と高いモチベーションを感じさせてくれたのには、新規開拓を旨とした『M-1』とは別の渋い魅力が垣間見えた。といっても番組の魅力ではなく、漫才師の魅力なのだが。

以下、例年にならっていちおうそれぞれについて登場順に触れたいと思うが、正直『爆笑ヒットパレード』レベルのテンションでしか観られなかったため、軽く触れる程度になってしまうかと思う。

《Aグループ》
囲碁将棋】
無難に上手い。ただ特に盛り上がる瞬間はなく、印象に残らなかった。
チキチキジョニー
「視聴者がテレビを観ながらTwitterに書き込んでそうなことを言う」悪口の連打。勇気は買うが発想はごく普通。何万人もの人が言ってることを言うのも笑いの一種で、勇気というのも笑いにとって非常に大事な要素だが、その先が欲しい。
【ナイツ】
2本とも非の打ちどころなく完璧だった。細かいボケを縦に積んだり横に積んだり渦を作ったり。以前から完成度は高かったが、ここへ来てネタの並べ方やそれぞれの絡ませ方にまで意識が行き届くレベルまで精度が高まっており、個人的には優勝だと感じた。彼らが固執しているスタイルへの「飽き」は観る側には少なからずあると思うが、スタイルを守りながらもマイナーチェンジを繰り返していく貪欲さは凄い。
【磁石】
完成度は高いが1個1個のボケが浅く、もうちょっと奥まで言ってほしい感じ。「目覚まし時計組み立て部」とか、かなり強めにツッコんだり広げたりしないと成立しないボケが多い。

《Bグループ》
【Hi-Hi】
高田純次ザキヤマ路線の「信用できない語り手」系ボケ放題だが、漫才内でやるとけっこう新鮮味があるというのは発見。しかしちょっと無理してやってる感も時おり伝わってきてしまうのは、いい加減さが安定しすぎているからか。
テンダラー
ベタベタで古い。昔ながらの関西標準。場違いな安心感。
スリムクラブ
さすがにもはやスローテンポに新鮮味はなく、中身が少ないことと同義になってしまっている。番組自体に『M-1』ほどの緊張感がないため、スローボールでタイミングを外す効果も期待できず。
ハマカーン
ツッコミの平坦さが終始気になるが、ボケは面白い。しかしパターンにはめ込んでいるのはすぐに読まれてしまうので、もうひとつ外す手段がほしい。終わり方でボケられるのは武器。漫才は基本的にみなラストが弱いので。

《Cグループ》
【学天即】
漢字ネタはフリップが必要だと思った。内容は標準的だが、即座に伝わりづらかった。
博多華丸・大吉
場慣れから来る面白そうな雰囲気はあるのだが、ネタとしては浅い。それほどでもない素材を、料理人の腕でなんとかしている感じ。
アルコ&ピース
スーパーマリオの歌ネタは最初面白いが、続けているうちに飽きてしまった。ここらへんと最終決戦組との差は、後半の奥行きがあるかどうか。
パンクブーブー
1本目の叙述トリックネタは相変わらず素晴らしい。「水掛け論の水」「全身のおでこというおでこ」など、ワードセンスも含め、ある種の文学性すら感じる。ただ、トップスピード時のたどたどしさがちょっと気になるが。
2本目は標準スタイルの漫才で、ややベタすぎた。去年の『M-1』で叙述トリックネタを2本揃えて失敗したため、あえて変えて来たのだと思うが。

《Dグループ》
エルシャラカーニ
ネタの内容からすると、1分ぐらい長すぎたという印象。グルーヴが出てきたところでスパッと次へ言ってほしかったが、ちょっと同じ所をグルグル回り、引き延ばしすぎて飽きられてしまった。間違いに、天然に思えるものとわざとらしいものが混在していて、後者が出てくると途端に冷めてしまう。唯一無二のスタイルを持っているので、あとはどこを制御してどこを解放するかだと思う。
【千鳥】
M-1』のときは、いつもなんで決勝に残っているのかわからなかったが、今回は2本とも面白かった。ナイツやパンクブーブーに比べると、ネタの密度で負けてしまった感があるが、内容的にはいい勝負だった。ここへ来て伸びているのは頼もしい。
ウーマンラッシュアワー
基本的にはNON STYLE直系の速度至上主義。そのぶん精度に難があるが、今回はあまり気にならなかった。しかしナイナイ岡村が指摘していた通り、さんざんやっているネタなので新鮮味がなかった。
銀シャリ】(ワイルドカード
細かいボケに対して長いツッコミというツッコミ偏重型。駄洒落レベルの弱いボケを説明ツッコミで長々と補強するのはさすがに苦しい。

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