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不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『キングオブコント2011』感想

世界観を重視するか文体で勝負するか、というのは小説や漫画の話だけではなく、コントにも当てはまる。

漫才の場合は、文体が基本にあってそれを元にどこまでぶっ飛んだ世界観を築き上げることができるか、という勝負に近年なっているが、コントの場合はその逆で、世界観が基盤にあって、それを中身の文体にまでどこまで浸透させていくことができるかの勝負になってきている。だからどちらかしかないと、勝てない。文体という言葉はちょっとわかりにくいかもしれないが、大雑把に言うとコントにおける文体とはつまり台詞のことだから、結局のところ台詞を発するキャラクター=文体ということになるかもしれない。その意味で、二本ともキャラクターで大きなインパクトを残したロバートの優勝は順当な結果だろう。

以下、登場順に感想を。

【トップリード】
ありがちな設定を勢いで強引に持っていくスタイルが、新鮮味に欠けた。まず引き込むべき世界観がなく、中身の文体にも特徴がないのをテンポと筆圧で押し切ろうという形。その歯切れの良さは劇場向きかもしれないが、皆が真剣に見守るシビアなコンテストでは厳しい。

【TKO】
良くも悪くもベテランの貫禄が全体の緩さにつながっていた。一本目はそれが悪い方に、二本目の後半はその自由さが良い方に転がった感じ。

特に一本目は、ボケのひとつひとつが単発で終わっているため平坦で、後半に向けて盛り上がっていく感触に欠けていた。しかし二本目の後半では独自のグルーヴが生まれ、観客を巻き込む力があった。いつものことだが良いときと悪いときの差が激しい。

【ロバート】
かなり特殊な設定に異常なキャラクターを掛け合わせるハイブリッドな手法は、とにかくインパクトが強い。若い頃はそのインパクトに中身が追いついていない印象があったが、今や(といってもだいぶ前からだが)秋山の狂気が設定を軽々と越えてくるまでになった。

秋山の狂気とはつまり「異常な幼児性」であり、そこに大人が巻き込まれていく様が渦となって観客を飲み込んでいく強制力がある。お笑いをやるうえで「幼児性」をどう強烈に表現していくのか、というのは大きなテーマだと思う。

ラブレターズ
一本目の校歌ネタは、すでに甲子園で珍妙な校歌を歌う高校が話題となっていたため、現実の強度にフィクションが負けてしまいインパクトが弱い。あとラップに関しては、そもそもラップの世界に笑いは巧みに取り入れられているため、この程度の笑いの混ぜ具合では普通のラップなのでは、という印象でしかなかった。

二本目はしつこさと視点の細やかさが存分に発揮され、いい意味での「気持ち悪さ」が出ていて良かった。一本目の校名を歌う箇所はたしかに秀逸だったが、落としどころを明確に設定しているぶん、他の箇所が単なるネタふり以上にはならなかった。それに比べ二本目の混沌の中には、何がどこから飛び出してくるかわからないスリルが常にあった。売り込みやすいのは校歌ネタだろうが、本領は二本目のほうだろう。

【2700】
己の武器であるところのリズムネタ一点突破で勝負してきた一本目は、ワンフレーズで貫くには時間が長すぎるのか、中盤やや間延びしたが、それでもトップのロバートに匹敵するインパクトを残した。

二本目はリズムネタというほどリズムにこだわった感じもしない、ちょっと彼ららしくないネタに意表を突かれた。こちらは時間の経過とともにワンフレーズ押しがジワジワと来る感じで、一本目に比べると後半盛り上げ型だったぶん、点数に直結したのかもしれない。

しかし二本目は「面白い」というよりは設定の奇抜さに「感心する」タイプのネタであり、そこが芸人審査員に受けたのは大いにわかるが、やはりこの二本目の方向性はまだまだ消化不良の感が否めない。本人もやり終えた後に、「このネタの何が面白いのかわからない」と言っていたくらいで。だが「内容」よりも挑戦的な「姿勢」を評価するのが、芸人審査員の傾向でもある。

モンスターエンジン
ファンタジックな世界観と設定の絞り込み方はさすがだが、一本目はさすがに中身が緩すぎるというか、コント番組内で放送作家が数合わせに書いたコントのようなやっつけ感。練り込み不足な感触。

それに対し二本目は世界観よりも文体を重視したネタで、一本目ではどうも煮え切らなかったキャラクターの部分が完全に振り切れ、行くとこまで行ききった感じが潔かった。

【鬼ヶ島】
ある種の狂気を狙っているのはわかるのだが、ありがちな設定を狂気の一点で打開するには、いまいちワードセンスが足りない。

動きと表情で気持ち悪さを表現しているところに狂気の雰囲気は感じるのだが、その先には必ず文脈を巧みにはずした強烈な言葉が必要になってくる。その言葉の部分が弱いために、見た目の印象のみで勝負することになり、そうなるとほぼ出オチのようなことになり、後半まで持たせるのが厳しくなってしまう。

キャラクターには可能性を感じるだけに、もったいない印象が残る。

【インパルス】
どのネタをやってもレベルが高く、間違いのない実力を持ったコンビではあるが、一本目のネタに関してはなぜこれを選んだのか、と言わざるを得ない保守的なチョイスだった。すでに力量が充分に評価されているだけに、何かしら新しい要素を見せないと得点につながらないという不文律が、すでに売れている芸人がコンテストに出る際には高いハードルとして立ちはだかる。

二本目は一本目よりも明らかに質は高かったがやはり新たな側面を開拓するようなネタではなく、らしさを見せるだけで終わってしまった。新境地か、あるいは既存路線ならば徹底的に振り切ったネタを観たかった。


全体として、今回は過去の大会と比べても「思いきりの良さ」が求められた大会だったように思う。つまりはそれだけ審査員席に座っていた芸人たち自身も、思いきって「振り切ること」こそが重要だと感じているということであり、それは何もお笑いの世界に限ったことではない。

《昨年大会のレビュー》
キングオブコント2010』感想
http://d.hatena.ne.jp/arsenal4/20100924/1285257143

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