泣きながら一気に書きました

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おでこ解放同盟

このたび、医師のおでこにくっつけられたコンパクトディスク(通称「でこ盤」)に関して、8cmシングル盤が禁止される方針であることが明らかになった。無駄に縦長パッケージのアイツである。

そもそも「でこ盤」は、基本的に白衣しか許されぬ医学界において、数少ない自己主張ポイントとして機能しており、そこにどのような音楽的方向性のCDを貼るか、それによりいかなるメッセージを発信するかというのは、これまで非常に重要視されてきた。ちなみに研修医の段階では、五円玉しか許されていない。

われわれ患者側の人間にはピカピカ面しか見えないのでまったく伝わっていないが、技術に自信を持つ医師はプログレのCD(一番人気はEL&P展覧会の絵』)を、博愛主義を標榜する医師はSMAP『世界にひとつだけの花』を、無免許医はセックス・ピストルズの『アナーキー・イン・ザ・UK』を、そんなことより路地裏や向かいのホームに別れた恋人を探している医師は山崎まさよし『One more time,One more chance』を、それぞれ額に戴くことで医学的モチベーションを高めているのだ。

しかし今回の8cmシングル禁止令により、早くも重大な問題が取り沙汰されている。それはそもそも、シングルのほうがアルバムよりもメッセージを明確に表明しやすいという点である。実際、アルバムの中には好きでない歌詞やスタイルの楽曲が混じっている場合も多く、しかも現役医師の多くは、最近の12cmマキシシングル時代の曲ではなく、世代的に8cmシングル全盛期の曲をいまだ好んでいるというデータもある。

たとえば医師がアルフィーの熱狂的ファンであった場合、そのアルフィー愛が深ければ深いほど、「俺は『星空のディスタンス』が大好きだが、『メリーアン』は断固認めない! なぜならば俺はメリーアンという名の女性になど出逢ったことがないからだ!」といった頑なな主張も生まれやすいというもの。その場合、選曲が良いからといって下手にベスト盤などのアルバムを貼りつけてしまうと、ベスト盤には代表曲のひとつとして「メリーアン」が収録されている確率はすこぶる高く、そうなった場合、ずっと大嫌いな見ず知らずの外国人女性を前頭葉に貼っつけておかねばならず、オペに集中できない可能性が高いのである。

それに対し、デジタル音楽世代の若手医師らからはもちろん、「iPodiPhoneを貼りつけておけばいいじゃないか」という意見が多く寄せられている。たしかにそうなれば、自分の好きな曲だけを貼りつけることが可能で、シングル盤ほど筋の通ったメッセージはやはり期待できぬものの、少なくとも嫌いな要素を貼りつけて不快なオペや診察にのぞむことはないだろう。

だがそうなると、何のためにそんなものをわざわざおでこに貼っつけているのか、という話に当然なり、まだ5円玉しか貼ったことのない研修医を中心に「おでこ解放同盟」が発足。現在、おでこ解放運動が各地で激化しているという。

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