泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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生まれかけのradiko

3月15日より、インターネット上でラジオをフルに聴けるようになった。

そのプロジェクト名(?)を「radiko(ラジコ)」という。「RIKACO」のようなひと昔前のお洒落感とミジンコのような矮小さが滲む名前が切ないが、「RIKACOのデコ皺には無数のミジンコが住んでいる」あるいは「ミジンコ柄のブラウスさえお洒落に着こなしてしまうRIKACO」を想像してもらうと覚えやすいだろう。

その名称の真意はよくわからない。「ラジオの子供(次世代のラジオ)=ラジ子」のようなニュアンスなのか。いや「ラジ夫」に対する「ラジ子」だろうか。まだ試験段階とのことで、配信地域は在京在阪に限られている。ずいぶん弱気なスタンスにも見える。

TBSラジオに『安住紳一郎の日曜天国』という番組がある。安住さんと言えば(なぜか彼の場合、自然と“安住さん”と「さんづけ」になってしまう)、さんまやたけしやピン子といった猛者たちとも堂々渡りあう当代随一の機転の利くアナウンサーだが、彼はラジオだとさらなる毒入りユーモアを炸裂させる。先々週の放送で、彼はradikoについてこんなことを言っていた。

「(radikoのスタートは)“ドキドキわくわく”ではなく“ドキドキわなわな”」
「ラジオを取り巻く状況はここ20年、見事に右肩下がりで、まもなく肩が脱臼するところまで来ている」
「ラジオは風前のともしび」
「目を覆わんばかりの惨憺たる状況」
「許認可事業にあぐらをかいて荒い商売をしてきたツケが回ってきた」
radikoをネイティヴに発音すると“レイディコ”になっちゃう」

などなど、ラジオファンの間ではアバウトな歓迎ムード全開のradiko開始という状況に対し、いきなり厳しい現状分析から入っている(最後のは別だが面白いので)。おそらくこれまで、ラジオ業界の内側にいる人間が、ここまで冷静かつ客観的そして完膚無きまでに、ラジオの現状を赤裸々に語ったことはなかったのではないだろうか。

僕は今回のradiko始動に関して、「これでなんとかなるはず」とは言わないまでも、なんとなく希望的な側面ばかりが強調されているように感じていて、そのことに強い疑問を抱いていた。twitter内の業界関係者の発言やラジオファンの意見を見ていても、あまりに楽天的な絶賛が多すぎて、ちょっとしたお祭りムードになっている。

それに対し、最もラジオの弱い部分を言いにくい立場にある安住さんが、ここまでバカ正直とも言える告白からradikoの話をはじめたのは、本当に凄いことだと思う。こんな人はどこの組織にも滅多にいるもんじゃない。

しかも彼が素晴らしいのは、これだけラジオに関する否定的な弁を並べながらも、それが時にはユーモアに昇華され、時には冷静な分析や具体的提案に支えられ、その意見がけっして後ろ向きに響かず、むしろ愛に溢れていると感じられるところにある。「否定的なことを言ったら即アウト」みたいな臆病な空気が支配的な昨今だが、問題をきっちり問題として提示しない限り、そこから一歩も前に進めないのは当たり前の話。言うべきことを言わないのは、けっして親切でも前向きでもなく、それは単に嘘をついているか話者が鈍感なだけだ。安易な現状肯定からは何の改善策も生まれない。

安住さんの話の内容に関しては、ポッドキャストで聴けるのでぜひ聴いてみてほしい。radikoが今後向き合うであろう数々の問題点と可能性が、関係者のひいき目なくリアルに、かつ面白く(これはすごく重要だ)語られている。面白くない話は、どんなに役に立つものであっても聴く必要はない。

ちなみに僕は、ラジオは「携帯性」と「録音が手軽にできること」が重要だと考えているので、radikoの段階というよりは、そのだいぶ先の展開に期待している。現状では明らかにポッドキャストが最もすぐれたラジオ聴取環境なのに、いまさらパソコン上で、しかも生でないと聴けないんじゃしょうがない、とも思っている。

今のところポッドキャストでフルに聴ける番組はほぼ皆無で(『文化系トークラジオ Life』は聴ける)、しかもTBS以外の局はことごとく主力を投入していないという寂しい状況。ならばTVに対するハードディスクレコーダーの予約システムのように、簡単に録音予約できる手段が欲しいが、それもまったく整っていないし予感さえしない。地味に売っているラジオサーバーの類は容量のわりに異様に値段が高く、予約も時間設定がいちいち必要な上、受信能力や音質が特に優れているわけではないから買う気にならない。お陰で僕はいまだにコンポとMDをオーディオタイマーに繋いで録音しているという涙ぐましい録音環境で、ここまでの準備はとてもじゃないが気軽に他人にお勧めできるものじゃない。

大のラジオ好きでさえこんな状況に不満を抱いているのだから、これから新規ファンを開拓していこうというならば、あらゆる側面から問題を炙り出し、逐一改善していく覚悟がないといけない。愛するラジオ存続のために、radikoのその先を期待します。

radikoホームページ
http://www.radiko.jp/

安住紳一郎の日曜天国ホームページ
画面下のバナーからポッドキャスト登録可能。
3月7日放送分の「鰻マヨバーグ」という変なのがradikoについて語った回。
http://www.tbs.co.jp/radio/nichiten

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