泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『THE BETRAYED』/LOSTPROPHETS 『ザ・ビトレイド〜裏切られし者たち』/ロストプロフェッツ

てっきりUSと思いきやUK、という出身地の思い違いと再確認を毎度させられる彼らの新作は、相変わらずその中間の大西洋ど真ん中に浮かんでいる。全英1位を獲得した前作でハードルを上げまくった末の、そのそびえ立つハードルを前に右往左往した末に放たれた、3年半ぶりの新作。

プロデューサー二人(ジョン・フェルドマンとボブ・ロック)をたて続けに袖にしたといういわくつきの制作過程は、とにかく「まとめられる」のが嫌だったということだろう。結果的にはベーシストのスチュワートのプロデュースということになっている。

まずはアルバム冒頭のヘヴィな入りに驚かされる。なんだか突然グレたような気がする。夏休みにホームステイした高校生が、二学期初日にラジカセ担いでキャップを横っちょにかぶり、スケボーで登校してくるようなアメリカナイズ感。いや正確に言うと、ラジカセ担いでそうなヒップホップ風味はまるでないし、スケボー的なメロコア要素も希薄だから全然そういう感じではなく普通の今様アメリカン・ヘヴィ・ロックなのだが、単にアメリカ度合の強さをお伝えしたくてそのような例えを用いた。

その狙いに至極納得がゆくのは、そりゃあ全英No.1を取ったら残るは全米1位しか目標がないのだから当然である。ジャケットのダークなイメージと①〜③のストレートかつヘヴィな流れは明らかにアメリカ向けである。

と思いきや、④以降はまったくそんなことはないのである。むしろ今まで以上にポップだと思える瞬間も多々あって、USというよりはむしろUK色を強く感じさせるしみじみとしたメロディの充実がある。本作はヘヴィな作品だとの評判がどうやら流れているが、全体を通してみればそんなことはまったくない。普通に彼ららしい楽曲が詰まったアルバムであり、こと楽曲のクオリティに関しては、これまでで最も粒が揃っているように思う。

だが問題なのは、それら良質な楽曲が「ただガチャガチャと並んでいるだけ」という散漫な印象を受けることで、どうにもこうにも流れが悪い。まあそんなことは楽曲の質に比べれば、曲単位で聴かれる今の世においては些末なことなのかもしれないが、一方では冒頭とラストとジャケットが、揃って映画的に全体をまとめ上げようと企んでいるから始末が悪い。ここらへんが明らかに「プロデューサー不在」の欠点を感じさせる部分で、最後の曲がいったん終わってからしばらくの後また始まるという余計な工夫も、全体をコンセプチュアルに収束させるというよりはいかにも素人アイデアっぽく響く。

結局のところ、彼らは何よりも曲単位のクオリティを優先したということだろう。全体がアメリカ向けにならなかったのも、変にコンセプトばかり重視して退屈なインタールードだらけにならなかったのも、セルフプロデュースのお陰といえばお陰なのではないか。これは別に無理にポジティヴに解釈しているわけではなく、今回は本当に曲が良いということが言いたい。メロディ派の人は、前半を試聴するだけで諦めないでほしい良作である。

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