泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『OUTRAGE』/OUTRAGE 『アウトレイジ』/アウトレイジ

復帰作やら原点回帰作やら起死回生の一撃とやらには、過剰な期待をしないのが大人のたしなみというもの。しかし橋本直樹(Vo)の復帰作となる本作は、あらゆる意味で全方位からのわがままな期待に、最大限応え上回ることに成功している。

事前に噂されていたほどには、かの名盤『THE FINAL DAY』に近い作風ではない。あそこまでスラッシュ/欧州HM寄りではないという意味で。

たしかに、LOUD PARK 09で先行披露された①“Rise”は“My Final Day”を確実に継承する楽曲であり、そこから②への流れやアルバム全体の緩急バランスなど、『THE FINAL DAY』をかなり意識して作られたアルバムとの印象はある。しかし特に中盤の楽曲に見られる、メタルというよりはMOTORHEAD方面を睨んだロックンロール寄りな感触は、明らかにあの作品以降に培われたもので、なかなか魅力的楽曲へと繋がらなかったそれらの要素が、ここへ来てようやく結実したとの感慨がある。

スラッシュへの原点回帰とロックンロール的グルーヴの両立という意味で、全体の印象としてはMETALLICAの『DEATH MAGNETIC』にかなり近い。だがそこはリック・ルービンとフレドリック・ノルドストロームというプロデューサーの性質の違いもあってか、仕上がりの質感はかなり異なるのが面白い。前者のルーズさがMETALLICAのラフなノリを引き出した結果として楽曲に冗長な箇所が多く見られたのに対し、北欧メロディック・デス・メタルの重鎮が引き出したOUTRAGEの姿は、あまりにタイトで無駄がない。

あるいはメタル・ファン以外の人にとっては、本作の無駄のなさはある種の窮屈さと捉えられるかもしれない。だが一方で、このストイックに楽曲を削り磨き上げる姿勢のみが、スラッシュへのロックンロール導入を可能にしたとも言える。『DEATH MAGNETIC』を万が一フレドリックがプロデュースしていたなら、という今さらな幻想も湧き放題。

と言いつつも、やはり個人的にはスラッシュ然とした②や⑩が好きだったりはするのだが、いま彼らが作品を改めて作るという意味を考えたとき、グランジ以降のグルーヴをどのように楽曲へと導入してゆくのかというのは、現役バンドとして必ず通らなければならない命題であり、その方法は本作においてかなりの成功を収めているように思う。

原点回帰的色あいと明日への展望を見事に練りあわせてみせた、現時点における最大限の成果として評価できる快作。

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