泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『THE CIRCLE』/BON JOVI 『ザ・サークル』/ボン・ジョヴィ

とりあえず前作『LOST HIGHWAY』のようなカントリー娘。でなくて良かった、という安堵。と同時に、かといってそれに代わる新しい要素が特にあるわけではない、という不満。だがそれでも、仕上がりのクオリティは保たれている、という結果論。

その三点のうちどこを重要視するかで作品の評価は大きく異なってくるが、結局のところこの楽曲の質を前にすれば、すべてはある程度その良さを認めた上での話になってくる。

まず、地味。曲の出だしから名曲を予感させるような立ち上がりの良い曲がなく、徐々に盛り上がってゆくタイプの楽曲が多い。だが地味なのが悪いというわけではもちろんなく、BON JOVIの地味な曲とは、なぜかリッチー・サンボラのギターが活躍の場を得る曲でもあるから、彼のギターを聴きたい向きには満足できるはず。リッチーはサッカーでいえば一定のスペースを必要とするタイプのプレイヤーであり、密度の高い楽曲の中では堅実なプレーに終始する。それは彼がそもそも、ブルーズという「間を生かした音楽」にルーツを持つギタリストであるということでもあるのだが、今回は『THESE DAYS』レベルの大きなスペースが彼には与えられており、それをきっちりと生かして楽曲の魅力に繋げているあたりはさすがである。

そして実のところ、先に述べた「徐々に盛り上がってゆく」という本作の楽曲展開は、いわゆる通常の「サビに向けて盛り上がってゆく」という形ではなく、その後ろに待ち受ける劇的なギター・ソロを頂点として設定してある。山場を後ろへ後ろへとズラす手法は、このアルバム全体に対しても適用されている構造で、緩いはじまりの割には劇的に盛り上がる⑧“Brokenpromiseland”をはじめ、佳曲は後半に集中している。この手の立ち上がりの悪さは、どうにもオッサン臭い(準備運動が長い)ように思えてしまうのだが、意図的なものなのかどうか。結果として聴きはじめの予感に比べ、聴後感は悪くない。

あとどうしても気になるのは、全体にかなりU2化が進行している点。静かにはじまり徐々に楽器の数が増えてゆくゆったりとした展開、どこか遠くで鳴るようなカラカラとしたギターのカッティング、間奏にかぶせられる「シャランラ」とか「オーオー」とかいうような遠吠え的歌唱など、明らかにU2への憧れが随所に現れている。ひとことで言えばそれは、「悠久」という感触だろうか。だが結果的に自らその悠長さに耐えられず、サビやソロできっちり盛り上げてしまうところに、彼らの人の良さというか、ハード・ロック・バンドならではのエンターテインメント性と誠実さがある。近作におけるU2のように、盛り上がりそうな雰囲気ではじまっておきながらさっぱり盛り上がらないという「バンザ〜イ、なしよ」的不誠実さは、ここには見当たらない。だがどの曲も似たようなU2型の展開を採用しているのは、やはりどうしても気になるところだ。

ちなみに1stシングルの①“We Weren't Born To Follow”は、確かにこのアルバムの中では明快な部類の楽曲ではあるが、それ以上に良い曲が他にかなりあるので、作品の質を象徴するほどの曲ではない。さらに②はこの作品中でも特に地味、③は名曲“Livin' On A Prayer”まんまのベース・リフではじまるという意外には特筆すべき点のない平凡なヘヴィ・ロック曲で、④で大きく巻き返すものの、この曲順には大きな疑問を感じざるを得ない。シングル・カット曲の選択も含め、プロデューサーなのかディレクターなのかジョン・ボン・ジョヴィなのか、誰が仕切っているのかはわからないが、そこらへん妙に大雑把な印象が残る。もちろん、ジョンがすべてを決めているのだとしたら、もう誰も彼クラスのミュージシャンに意見することなどできる環境ではないのだろうが、どうか。

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