泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『MIND CONTROL』/TANTRIC

1st『TANTRIC』を100万枚売って勢いよく飛び出したものの、2nd『AFTER WE GO』20万枚、3rd『THE END BEGINS』7万枚と、順当に売上曲線を降下させているアメリカン・ヘヴィ・ロック・バンドの4作目(1st以外は日本未発売)。ちなみにメンバーはすでにVo以外総入れ替えが行われており、前作からはバイオリン奏者まで入っていて驚く。

しかしこのあまりに渋すぎる声さえあれば他は何もいらぬとばかりに、Voヒューゴ・フェレイラの野太いハスキー・ヴォイスは相変わらず強力無比だ。デビュー当初はポストALICE IN CHAINSとの呼び声もあったが、たしかに内向的な陰鬱感は全体に漂っているものの、歌があまりに力強くエモーショナルすぎて、グランジ的なダルさは根こそぎ払拭されてゆく。

基本的にはグランジ以降の王道ヘヴィ・ロックだが、バイオリンの切り込み方も含め、アレンジにかなり工夫が凝らされている。正直、澄んだバイオリンの響きとしわがれた声の相性はあまり良いとは言えず、全体のヘヴィな音像の中で唐突な印象は否めないが。

一方で予想外の頑張りを見せているのが、ところどころ意外性のあるアルペジオオブリガートを繰り出すギターで、個性が強すぎて一本調子になりつつある歌声を多彩に演出している。

1stの冒頭を飾る“Breakdown”級の超名曲は見当たらないが、楽曲の平均レベルは過去最高水準を誇り、個性も充分。誰も彼もがLINKIN PARKNICKELBACKを目指す現在のアメリカン・ヘヴィ・ロック・シーンの中で異彩を放っている。ヘヴィさを強調するためか、声を力みすぎる箇所が見られるのがもったいないが、⑤のように優しい歌メロを持つ曲における歌唱では、これまでになかった柔らかさを感じることができる。

アクが強いぶん、中毒性の強い作品である。声質はもちろん、加減速のタイミングが読めない歌い回しもかなり独特でクセになる。しかし見るからに安っぽいアートワークと、今さらな感の強いアルバム・タイトルが、強烈に足を引っ張っているような気が。

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