泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『BLACK CLOUDS & SILVER LININGS』/DREAM THEATER 『ブラック・クラウズ&シルヴァー・ライニングス』/ドリーム・シアター

何度聴いても全体像を把握することが困難で、だからこそ何度も聴き続けてしまう中毒性を持つのはいつもの通り。それはプログレッシヴ・ロックの魅力でもあり、とっつきにくさでもあるだろう。

近作において彼らは、「音像のヘヴィさ」という明確な入口を設け、プログレ特有の難解さ、とっつきにくさの壁を力業で突き破ることで、多くのファンを獲得してきた。その結果として、ビルボード初登場6位という結果を本作は叩き出している。アメリカのリスナーにとっては、彼らのヘヴィな側面が受けているのは事実であり、そこを重視したライヴ向けな音作りは、着実に成果を上げてきたと言える。

だがそれは、2nd『IMAMES AND WORDS』を絶対的名盤と仰ぐ日本の多くのファンにとって、望んでいた方向性ではなかった。彼らにキャッチーなメロディを求めるリスナーにとって、本作までの10作中、アルバム単位で満足できる作品は、『IMAGES〜』と『METROPOLIS Pt2:SCENES FROM A MEMORY』(と、Voに我慢できれば1st『WHEN DREAM AND DAY UNITE』)だけだったのではないか。

もちろん、楽曲単位で見れば“Hollow Years”“I Walk Beside You”や、組曲“Six Degrees Of Inner Turbulence”(Disc2)など、彼らのメロウ・サイドが存分に発揮されたものもあったが、むしろそれらの楽曲はアルバムの中における少数派であった。

逆に言えば『IMAGES〜』におけるメロディの充実度はとんでもなく高く、プログレにあるまじきキャッチーさを備えていたということでもある。本作について何よりも嬉しいのは、その「キャッチーさ」が、かなり戻ってきているという点だ。当然のことながら『IMAGES〜』のレベルには及んでいないのだが、『SCENES FROM A MEMORY』の水準には近づいている。

ギター・リフが単調であったり、いい加減な歌メロが散見されるのは、明らかにヘヴィネスを重視したここ数作の弊害だろう。特に問題なのは楽曲冒頭の「つかみの弱さ」で、どの曲も後半に行くにつれて盛り上がる。本作が十二分にキャッチーでありながらも相当の聴き込みを要するのはそのためで、エンジンが温まるまである程度の辛抱を必要とする。

リフの退屈さに比べ、本作におけるジョン・ペトルーシのギター・ソロは、かつてないほどに素晴らしい。特にRUSH的な清涼感を感じさせる後半2曲におけるその活躍はまさに縦横無尽で、アルバム全体を通してみても、本作の主役は完全に彼である。

長尺曲を聴きとおす集中力と辛抱強さが要求されるが、いずれの楽曲にもそれに見合うだけの(あるいはそれ以上の)到達点が用意されている。近作の中では出色の出来であると思う。

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