泣きながら一気に書きました

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『ONE OF A KIND』/KILLING TOUCH 『ワン・オヴ・ア・カインド』/キリング・タッチ

もうジャケットからして、前に所属していたバンドへの未練タラタラである。もちろんいい意味で。少なくとも、VISION DIVENE在籍時に格好つけて作ったソロ作よりはずっといい。

本作の中心人物であるミケーレ・ルッピ(Vo)がVISION DIVINE在籍時に残したコンセプト作『STREAM OF CONSCIOUSNESS』は、様式美HM史上にひっそりと輝くとんでもない名盤だった。本当は燦然と輝くと言いたいところだが、2004年作品にもかかわらず既に廃盤になっているところを見ると、どうもひそやかだったようである。それはその次に発表された二作が、いずれも『STREAM〜』の縮小再生産に終わったせいかもしれない。方向性は期待通りだったが、明らかに楽曲の質が水準に達していなかった。

本作の目指している方向性は、基本的に『STREAM〜』の延長線上にある。もちろんそれ以外の、プログレ的新境地もあって、それは概ねコンスタントに失敗している。音楽理論に長けたメンバーを集めたという人選のせいもあるのか、技術に溺れた退屈な曲も少なくはなく、Voの桁外れに巧みな歌い回しにより、辛うじて一級品っぽく仕上げてあるという楽曲も多い。

何よりも歌を聴くためのアルバムである。そういう意味では、全体に楽器陣を抑圧することのない凝った作りになっていながらも、あくまでも歌い手が中心になって作った作品であると強く感じる。逆に言えば、バックを支える楽器陣の思い入れが、今のところまだ雇われレベルであって、Voにどうも追いついていない。それが演奏陣の実力(技術というよりはセンスの)不足のためなのか、思い入れ不足のせいなのか、それは現時点ではわからないのだが。

ミケーレの、早口なのにまくし立てない流麗な歌い方は、比較的プレーンな歌唱が好まれるこのジャンルのなかで、独特な個性を放っている。もちろん技術も声量も圧倒的で、だからこそ個性が生きてくる。彼の歌唱は、どんな楽曲をも一定のレベル底上げする万能な力を持つが、60点の楽曲を75点にするためにこの歌を使うのは、少々もったいない。今後、演奏陣がバンドとして機能してくれば、あるいはさらにこの歌を有効利用できる道が見つかるかもしれない。

本作ではミケーレがほとんどの楽曲を手掛けているが、ヴォーカリストには、自分では引き出せない長所というのがどこかにある。彼の才能を炸裂させる環境を、このバンド内に作り出せるかどうか。あるいは外部ライターを使うという手もあるが、いずれにしろこの才能を生かしきる環境が欲しい。

最後に一点、曲順の問題を。このアルバム、曲順がどうもしっくり来ない。アルバムのイントロダクションになるべきインストの小曲が2曲目にあったり、普通ならラストに余韻を残すべく配置されるはずの8分にわたるピアノ・インスト曲が、中盤の山場の位置に長々と登場したり。あえて奇をてらったのかもしれないが、特にそれが効果的に機能しているわけでもなく、えも言われぬ違和感だけが残る。次作はセルフ・プロデュースではなく、客観的視点を持ったプロデューサーの導入を検討したほうがいいだろう。

ともあれ小曲②から疾走曲③へとつながる流れは、『STREAM〜』に勝るとも劣らぬ出来で秀逸。

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