泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『ABOVE AND BEYOND』/BAD HABIT 『アバヴ・アンド・ビヨンド』/バッド・ハビット

北欧のいちハード・ロック・バンドとしてデビューしながら、3rd『ADULT ORIENTATION』にて、その名の通り堂々たるAOR宣言をした彼ら。それは自らの持つメロディセンスに対する絶対の自信があってのことだろう。どんなにメロディアスなバンドであっても、若者に馴染みの薄いAORというジャンルを名乗るのは、誰もが避けてきた道であるにもかかわらず。結果としてあの作品は、一部のメロディ愛好家にとって十年に一枚レベルの名盤となった。

しかし彼らに届いた評判はそうではなかったようで、その後の4th『HEAR-SAY』で、彼らはハードな音像とともに再びハード・ロック・バンドとしてのアイデンティティを取り戻す。だが結果としてメロディは犠牲となり、楽曲の質は明らかに落ちていた。ファンはこの作品で、彼らの音楽に見切りをつけたとしても不思議はないほどに。もう新作は出ないのではないかとさえ思われた。

それにしても見事な立ち直りぶりである。その後につづく5枚目にあたる本作は、身も蓋もなく言ってしまえば、前作と前々作の中間に位置する音楽性。だが3rdに通ずるメロディの質が戻ってきているのが、なによりも嬉しい。

彼らのメロディの本質にあるのは、1stでもカバーしていたアメリカのBOSTON譲りの、スケールの大きな哀感である。BOSTONと言えば、1stだけでも1800万枚を売り上げている怪物であるにもかかわらず、後継者がほとんど見当たらないという珍しいアーティストでもある。影響元として、JOURNEYやKANSASの名を挙げるアーティストは多いが、BOSTONを挙げる者は極端に少ない。その独特の感性が、北欧はスウェーデン出身の彼らに響き、動かしたというのが面白い。

とはいえ本作は、もちろんあの奇跡的な3rdの出来には届いていない。あのらせん階段をぐるぐると昇りつめてゆくようなメロディは、AOR的なゆったりしたリズムの上でこそ生きていた。それに比べると本作に収められた楽曲は、よりストレートで、最後のひとひねりが足りないと感じる。

3rdで打ち出した彼らの本領は、メロディに次ぐメロディの波状(=過剰)攻撃であり、そこにはメロディの繋ぎ部分に若干の違和感というか遊びというか、いくらかの無理があるのがむしろフックになって耳を惹いた。本作に流れている旋律のスムーズさは、楽曲構成力の向上とも取れるが、独特の臭みが減少しているという寂しさ物足りなさもある。だが根本的なメロディの力は、3rdに匹敵するレベルまで取り戻せている。

普通に良い曲はもっと評価されていい。スタイル優先のセンセーショナリズムに対する評価もあっていいが、こういうアーティストが正当な評価を得られる音楽シーンを望む。

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