泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『WHO ARE YOU?』/NICO TOUCHES THE WALLS

デビュー作には持てるすべてを注ぎ込むべきだというのは、ジャンルを問わずすっかり定説だが、その結果として散漫な結果を招くこともまた覚悟しなければならない。

とにかくバラエティに富んでいる。音楽性にしろ歌詞にしろ。とてもVo.が一人で作詞作曲を手掛けているとは思えないほどに。そこには限りないポテンシャルが伺えるが、やはり音楽の道はそんなに甘くはない。守備範囲を広げれば広げるほど、当然のごとく得意不得意が浮き彫りになる。

簡単に区分すれば、ギターが頑張っている曲(①③をはじめとする疾走曲)は素晴らしく、そうでない曲(ほんわかしたバラード)はありがちに響く。特にバラードを歌っているときの声が、歌メロと歌い方も含め、どうしてもミスチルに酷似してしまうのが足を引っ張っている。この世代('85年生まれ)のミュージシャンにとって、ミスチルの影響はあまりに大きい。

なぜかこのアルバムに収録されなかったシングル曲“武家諸法度”を初めて聴いたとき、その独特の歌詞に意味不明なまま引き込まれた。そういう単語レベルのパンチで勝負する曲こそ、彼らの真骨頂であると思う。本作にも単語が炸裂する楽曲がもちろん存在するが、期待していたよりは少なかった。①の爽快なメロディの風に紛れ込ませ歌われる「器物損壊罪など承知ノスケ」という歌詞の、鮮やかに屈折した感性は素晴らしい。

このバンドの場合、歌詞の激しさと曲の激しさは完全に比例しており、バラード系の楽曲の歌詞は普通にロマンティックになってしまい同系他バンドと大差ない。意地悪な見方をすれば、バラードははっきり売れ線を狙っているようにも見えるのだが、かといってそういう甘い曲をシングル・カットしているわけでもないようだから、そんな商業的意図はきっとなく、素直な現状の反映なのだろう。それはまさに“Broken Youth”=“若気の至り”(?)であるようにも思え、それはそれで微笑ましくもある。

一作目の冒険は常に許される。個人的には、ギターの小技を生かした激しい曲と唐突な歌詞をもっと聴きたいが、次作はどう出るか? いずれにしろこの先も追い続けるだけの価値は、たしかに感じさせる。

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