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泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

『HEAT OF EMOTION』/CAUGHT IN THE ACT 『ヒート・オブ・エモーション』/コート・イン・ジ・アクト

音楽レビュー(HR/HM)


『HEAT OF EMOTION』/CAUGHT IN THE ACT

いま聴き返してみて、改めて素晴らしいアルバムだったと気づく。同時代において浴びるように音楽を聴く中では良さを見出しづらいが、時代の喧噪から離れるとその輝きが見えてくる。隠れた名盤との称号がふさわしい。

だが結果的に隠れてしまったということは、際立ったセールスポイントが見つからなかったということだ。あるとすれば、AXEのボビー・バースが関わっていたことくらいで、それだってAXEの認知度があまり高くない以上、大したアピールにはならなかった。挙げ句、次作からは同名アイドル・グループの存在により改名を余儀なくされ、GUILD OF AGESへとバンド名を変更。より認知が難しくなる結果に。
 
とはいえそうしたイチ押しポイントの欠如は、必ずしも全体の質の低さを意味しない。逆に彼らの場合、むしろその裏側にある可能性を考える必要があるように思う。つまりあらゆる要素が高レベルでバランスよく安定してしまっているため、弱点が見当たらぬぶん長所が見つけづらいという逆転現象が起こる。結果、特長が埋もれ、キャラが弱いと見なされて目立てない。地味だと言われれば否定はできない。

しかしそういったキャラづけを求めなければ、本作はプレーンで美しい楽曲の宝庫と言える。哀愁を湛えつつポジティヴなメロディ、空間の広がりを感じさせるコーラスの完成度、ところどころ小技の利いたアレンジ、要所を引き締めるのみで出しゃばりすぎないグルーヴ、アルバム冒頭からラストへと流れまた冒頭に戻ってゆく全体の構成。希望的メロディの質感はZENOの名盤1stを思わせ、大らかに聴き手を包み込んでゆく。

そして聴き込むにつれじわじわと沁みてくるのが、Vo.ダニー・マルティネズの声質と節まわしに自然と漂う、そこはかとない色気。これが決して嫌らしくはなく、妙な演出もない。声を無理矢理裏返したり、語尾を上げて無闇に感情をアピールしたりしない、隠された色気が心地よい。

このアルバムに弱点があるとすれば、それは前半の立ち上がりの悪さだろう。もともと派手とは言い難い音楽性であるにもかかわらず、頭4曲があまりにおとなしく、メリハリに欠ける。曲自体は悪くないのだが、⑤以降の楽曲が持つ緩急とイントロの強さが冒頭にあれば、印象は大幅に変わっていたのではないか? 全体が一連の流れをなすコンセプトアルバム的な作りになっているため、徐々に立ち上がり緩やかに終焉を迎えるという流れは、構成上ひとつの必然であるとも言えるのだが。FAIR WARNINGの1stもそうだが、ハード・ポップの名盤とされるアルバムには、なぜか中盤以降が強力なものが多い。あるいはこの立ち上がりの悪さは、ジャンル的な宿命なのかもしれない。JIMI JAMISONの新作「CROSSROADS MOMENT」にもそれを感じる。

クオリティの高い後半の中でも、特に⑧⑨の流れが秀逸。爽快でありながら炸裂する哀愁。

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