泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

『TEN』/ENUFF Z'NUFF  『10』/イナフ・ズナフ

ルーツにも、どうやら流行というものがあるらしい。

おそらくファッションの世界とかだともっと明確であるように思うが、「いま'70年代が来てる」とか「いやむしろ'80年代が逆に新しい」とか。あるいはもっとピンポイントで「'70年代フランスのあの映画のあの女優の髪型」というようなところまで特定できるのかもしれない。

ロックにおいてもそういった「流行りのルーツ」というのは時代ごとにあって、そのたびごとにルーツ的バンドが再評価され崇められる。たとえばグランジが流行していた'90年代前半に流行っていたルーツは、初期BLACK SABBATH(残念ながらオジー期限定)であった。グランジを名乗るには、「重さ」の象徴としての初期SABBATHをルーツとして表明しておく必要があった。いまだにヘヴィ・ロックをやるには初期SABBATHへのリスペクトを何らかの形で表明することが必須であるような空気があって、それを最も端的に表明できるのがOZZFESTへの出演だったりする。

聴き手にとっても、そこらへんのルーツ表明が新人バンドの選択基準となり得るというか、ある種の太鼓判的な機能を果たす面もあって、もちろんそれはパクり云々のレベルまでいかない限りは悪いことではまったくない。

他にもLED ZEPPELINQUEENDEEP PURPLEなど、現代ロックのルーツとなっているアーティストは様々あるが、グランジ期における初期SABBATHほど狂信的かつ集団的にリスペクトされたバンドは、さすがに類を見ないのではないか。

と言ってみたところで、結局のところ根本の根本をたどればみんなTHE BEATLESだったりするから侮れない。「ルーツ」には「ルーツのルーツ」も必ず存在するのは当たり前の話で、「ルーツのルーツ」を辿ってゆくとたいがいTHE BEATLESに突きあたる。「ルーツのルーツのルーツ」くらいまでいくと、もう細胞とかDNAレベルまでいってしまうようなもので、もはや何が何だかわからないが。

個人的には、THE BEATLESがそこまで完璧だとは思っていない(捨て曲がかなりある)が、少なくとも2枚組ベスト盤を埋め尽くす量の名曲群があり、ファッションやメッセージも含めての後世への影響力は認めざるを得ない。

このENUFF Z'NUFFも、ビートルズの多大な影響下にあるバンドのひとつだ。それも間接的な影響ではなく、かなりダイレクトにその原型を見て取れる楽曲が多いのが特徴である。感触的にはOASISと同程度に、その影響は直に楽曲に反映されている。もしこのENUFF Z'NUFFがアメリカではなくイギリスから出ていたならば、そしてルックスがヘアメタル的ではなく「おかっぱジーンズ」であったなら、彼らはOASIS同様にイギリス発の世界的ブレイクを果たしていたかもしれない。そう思わせるクオリティが、彼らのいくつかの作品には充分にあって、まあOASISも2〜3枚しか名盤はないから同じようなものである。

と、こんな言い方だとENUFF Z'NUFFを褒めているようには聞こえないかもしれないが、つまりは世間的にOASISが過大評価でENUFF Z'NUFFが過小評価であって、両バンドのちょうど真ん中くらいの評価を、両者が均等に分けあうのが妥当だと言いたい。これもあんまり褒めてないのか…?

それはさておき、どうも近ごろ、今様アメリカン・ロックを聴いていてENUFF Z'NUFFを連想することが多くなっている。はっきり言って特別好きなバンドでもないのに、である。THE BEATLES直系なのだから、いつの時代もど真ん中に鎮座し得る方向性であるのは当然とも言えるのだが、やはり改めてENUFF Z'NUFFの立ち位置が、本当は絶妙かつオイシイ場所であるように思う。たとえばCINDER ROADやSHINEDOWNなどを聴くと近い位置にいると感じるし、PAUL GILBERTも基本はそこらへんだろう。

だがそれはもちろん、ENUFF Z'NUFFが後続アーティストに与えた影響力が大きいことを意味しない。彼らとは関係ない場所で、THE BEATLESをヘヴィに作り替えたのがNIRVANAALICE IN CHAINSグランジ勢であり、その余波がいまだアメリカ全土に残っているというか、もうすっかり消化され、肥料となって土壌の性質を変化させるに至っているというのが実情であると思う。その変質した土壌の上に種を撒いて発芽したのが、現代アメリカン・ヘヴィ・ロックである。そしてグランジの台頭とほぼ同時期に、別方向から同じく「THE BEATLESの激化」に挑んでいたのが、このENUFF Z'NUFFであったということに過ぎない。

それでは全体的にアメリカン・ヘヴィ・ロックはNIRVANAに戻っているということなのか、ということになってしまうが、戻ってはいない。しかしもはやそれは土壌になっているから、土からの影響は確実にある。そしてその向こう側にはいつも、「ルーツのルーツとしての」THE BEATLESがいる。

ENUFF Z'NUFFがやったことは、当然グランジとまったく同じではない。グランジ勢がTHE BEATLESをできる限り陰鬱に解釈しようとしたのに比べ、彼らは同じ素材を、いくらかポップに解釈して音楽を作っていた。ENUFF Z'NUFFの音楽にも陰鬱な質感はかなりあって、そこがグランジ勢との明確な共通点でもあるのだが、表面的には爽快感のある手触りで、全体として陰と陽のバランスが取れている。

逆に言えばNIRVANAALICE IN CHAINSSOUNDGARDENも、本質的にはTHE BEATLES由来のキャッチーさを内包してはいるのが、重さと暗さを強調した音作りで陰鬱な外殻を築いているということだ。そしてその外殻を取り払ったのが現代のアメリカン・ヘヴィ・ロックであり、その姿は、最初から外殻を持たなかったENUFF Z'NUFFに近い。ちょっとねじれた関係ではあるが、結果的に近い位置にいるのは間違いなく、強がればENUFF Z'NUFFに先見の明があったとも言えなくもない。特にそんな狙いはなかったとは思うが。

そんなENUFF Z'NUFFの新作『DISSONANCE』が出る(日本盤4/22発売予定)。MySpaceで試聴した限り、かなりヘヴィな感触があって、期待したほどメロディックではない印象。

↓ ENUFF Z'NUFF-MySpace
http://profile.myspace.com/index.cfm?fuseaction=user.viewprofile&friendid=45431397

個人的に彼らの最高傑作だと思うのは、この文字通り10作目にあたる『TEN』(2000年発表)。彼らの作品の中でも特にメロディの充実した作品である。そのぶん明らかに重さや激しさが減退しているが、「至極ポップでありながら明るくもなりきれず、かといってグランジ的な重さからは逃れている」という絶妙な旋律が味わえる。

しかしBEATLESを表記する際にわざわざTHEを毎度つけるのは、面倒なうえなんだか恥ずかしく、なぜかTHE ALFEEに対する反感がそこはかとなくこみ上げてくるこの不思議。完全にとばっちりなメリーアンである。

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