泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『EVERYDAY DEMONS』/THE ANSWER 『エヴリデイ・ディーモンズ』/ジ・アンサー

60〜70年代の、ブルーズを基盤に置いたブリティッシュ・ハード・ロックを正当に解釈した音楽は、まるで教科書のように、とりあえず全体像として非の打ち所がない。ファスト、ミドル、バラードとバランス良く配置された楽曲、力強くエモーショナルな歌唱、確固たる技術に支えられた演奏がもたらす安定感。確実に全教科で合格点オーバーは間違いなく、イメージでいえば国立大学を受験するタイプである。

だが実は、その全方位的に見えるそつなさの中にも、当然得意不得意というものはあるわけで、全教科で合格点を越えつつも、やはりこのバンドの一番の武器は①③⑪に代表されるアップテンポな楽曲群である。

そして不得意科目はバラード。④のようなゆったりまったりのバラードはあるが、強烈な泣きのバラードが見当たらないのは、やりたくないのかやらないのか、先人たちと比べてはっきりと欠けた一点であることは確か。そもそもが基本的に躁状態のバンドで、どんなに音像をヘヴィにしてもギターを泣かせても、どうにも軽く聞こえてしまうのは、彼らの唯一最大の欠点かもしれない。

たとえばLED ZEPPELINやFREEやWHITESNAKEといった諸先輩方に比べて、何か「業」のようなものからすっかり免れているというか、どうしても楽にこの音楽をやってしまっているような感じが常にある。いやそもそもそんな歴史的アーティストたちとつい比較されてしまうこと自体が素晴らしいことなのだが、それが音楽をやる際の核のような、もの凄く大事な中心点であることも間違いない。それは例えば、彼らがこの音楽性を選び取った「必然性」と言い換えてもいい。

とはいえいきなり「業」と言われても困ると思うのでもう少し表面的な言い方をすれば、ある種の「暗さ」が彼らの音楽には決定的に欠けているということだ。それが彼らの人間性によるものなのか、経験不足や若さによるものなのかはわからない。今後経験を積んでゆく中で、そういった渋味が増していくことも充分に考えられるから、それは今後の楽しみに取っておくという選択肢もあるだろう。だがまた一方で、上記の先人たちは登場時からすでにある種の「陰鬱な何か」をたっぷり抱えて表現してきたのも事実であり、それこそが才能だとも言える。それはカリスマ性にもつながる何かである。

これはTHE ANSWERに限らず、各界の現代アーティストが共通して抱えている問題である。だから彼らにのみそれを求めるのは酷な話だが、やってることのレベルが高いからこそ求めたくなるので許してほしい。それに楽曲の平均的クオリティは、初期WHITESNAKEやFREEに比べればこちらの方が高い。だからこそ難しい。

とりあえずデビュー作の高品質は維持しており、特に歌唱の思い切りの良さは、個性と言えるまでにレベルアップした。それだけに、Vo.を生かす方向にのみ気を遣ったアレンジには不足を感じる。もっと瞬間的に違和感を感じさせるような、歌の邪魔をしかねないくらいの主張がバックの演奏陣にも欲しいが、そのへんは次作に期待する。若い聴き手にとってハード・ロックへの入口となり得る有望株だけに、彼らの果たすべき役割は大きい。

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