泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『UNITED STATES』/PAUL GILBERT & FREDDIE NELSON 『ユナイテッド・ステイツ』/ポール・ギルバート&フレディ・ネルソン

器用貧乏と器用貧乏の相性が良いというのはちょっと信じがたいが、事実そうなっている組み合わせの妙。どちらもドライに技術を駆使しているのに、そこからは温度感のある音楽が生まれているこの不思議。

たとえばMR.BIGの場合、技術至上主義の演奏陣を、エリック・マーティンのハスキーな声が持つ過剰な情感で強引にまとめあげている節があって、その稀有なバランスこそが他にはない魅力であり弱点であった。

それに比べ、けっしてフレディ・ネルソンのヴォーカルに情感が欠けているというわけでははないのだけれど、彼が相当に器用な歌い手であることは、QUEEN風の②からJUDAS PRIEST的③、そして70年代懐古ロック④への流れで証明されている。何を歌ってもブルージーに染め上げるエリックの声や、どう頑張ってもポップになってしまうポールの歌と比べて、この無類のバリエーションを持つ声を手に入れたことは、よほどポールの創作意欲を刺激したのだろう。歌声に何を制限されることもなく、これまで以上に幅広いポールの作曲能力が存分に発揮されており非常に新鮮。多彩な声というのはえてして看板の不在を感じさせることもあり、扱い方によっては聴き手を混乱させたり印象が薄かったりということもあり得るが、ポールはフレディの持つそれぞれの側面を、持てあますことなく巧みに引き出している。

とはいえやはり飛び抜けて良いのは真夏のビールCMに最適なQUEEN系爽快曲の②“Waste Of Time”で、今後この方向性を伸ばしてゆくのか、あるいは他のタイプの楽曲を全体に底上げするのか、ちょっと迷うところかもしれない。

二人は同郷同年代で、ニアミスを繰り返した末にようやくタッグを組むに至ったとのこと。しかし逆に各自キャリアを経たことで準備万端、非常に良いタイミングで出逢ったように思う。こういう縁は大事にしたほうがいい。当プロジェクトの存続を強く望む。

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